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ニューヨーク、ジャクソンハイツへようこそのArxのレビュー・感想・評価

4.5
いつものワイズマンスタイルではあるが、場所とテーマのチョイスによってローカルなクイーンズの1地区の記録映画ではなく、下記の重層的な問題提起を含んだ作品となった
・民主主義と人種の坩堝であるアメリカという国の理想と現実
・LGBTや移民など2010年代の問題
・貧富の格差とジェントリフィケーション

そして何より重要なのがそれを徹底的に市井の人の視点から見せていることだ。上記のようなポリティカルなシーンだけでなく、老人ホームで生きていてもしょうがないから自殺した方がマシと愚痴る98歳の老人、編み物をしながら共同墓地の管理をどうするが話している(結局好きな俳優の話に脱線するが)奥様方など、井戸端会議や買い物など取るに足らないシーンも多くある。結局、政治に関するシリアスな話もどうでも良い雑談も一般市民からしたら同じ日常の出来事である。編集によってそこをフラットに見せていきつつ、退屈しないテンポ感を出していく手腕はさすが。

内容の大小は関係なく、ここに映る「市民」は自分が体験したこと、そしてどう感じたかを明確に語り相手からの返答に明確なレスポンスを返す。この映画には冒頭の問題について、「結果」としてのハッピーエンドは提示されない(例えば店の移転話が結局どうなったかは分からない)が、コミュニケーションという「過程」こそが希望であり、それを映画的としか言いようがない方法で見せることに完全に成功している。
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