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ハッピーエンドのmayaのレビュー・感想・評価

ハッピーエンド(2017年製作の映画)
4.0
何が「ハネケらしい」のかは言葉で上手く伝えづらいが、非常に「らしい」作品だった。こういう作品を撮って世に出してしまう(しかも一見爽やかで洒落たビジュアルで)から、色々な意味で感服。明るい色を連想させるタイトルやフライヤーも、〈監督: ミヒャエル・ハネケ〉を目にした瞬間とてつもなく胡散臭く見えてくる。そしてその感覚は間違っていないことを上映中に思い知らされるのだ。
無機質なスマホの画面、映し出されるSNS上のメッセージ。人物が姿を現しても、終始温度を感じられないままストーリーが進行する。ヒトの撮り方は通常運転。物理的な撮影距離が近くなっても、常に遠くから人を観察しているような気分に。お得意の長回しやスマホ、SNS等の今日的な描写もそれを助長するし、一つの家庭での生活者たちを影から覗き見しているような感覚。ハネケの作品を観るときにに自分が意識的にそうなってしまう部分もあるかもしれないが、一歩間違うと自分もスクリーンの向こう側の人間になりかねない…と思ってしまう。リアリティの無さを指摘している感想も見かけるが、個人的にはリアルすぎて怖いくらいだ。普通の映画では描写されない、人々が隠している部分を「もうやめて!」と言わんばかりの勢いで映してしまうんだもの。人間臭い、という言葉では収まりきらない程。だからハネケの映画は癖になる。
時折胃がキリキリと痛むような感覚に襲われるシーンがあってもその理由は上記の通りだし、本作については「不快」というワードでまとめられるような映画ではない。現代の家庭(そして大枠では社会)に焦点を当て、世代間のコミュニケーションギャップをはじめとする様々な問題をシニカルに…ちょっと意地悪に撮った作品。彼にしてみればユーモアを交えた、ぐらいの感覚なのかも。現代人が抱える心理問題も、逆手にとった描写で風刺を効かせている。(ピエールがカラオケ店?か何かでSiaのChandelierを歌って踊るシーンのせいで、DiorのCMを見る度にこの映画のことを思い出しそう。痛々しすぎ…) 夢を見させてくれるファンタスティックな映画が持て囃される陰で、こういう作品を撮り続ける人もいるから、映画って本当に面白いな…。ハネケ、好き。

ラストシーン、スマホを片手に構える少女の心の声が聞こえた気がしたのは自分だけではないはず。
「一丁あがり」
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