アキラナウェイ

ハッピーエンドのアキラナウェイのレビュー・感想・評価

ハッピーエンド(2017年製作の映画)
4.2
久し振りにハネケを堪能。
不躾にエゲツない画を
これでもかと見せつけてくれる。
ハネケ節に酔わされる。
嗚呼、やっぱり良い。堪らない。

「ミヒャエル・ハネケmeats SNS」と言わんばかりに、ポスタービジュアルの家族写真はカメラアプリを覗き込んだ仕様になっており、冒頭からも何かとiPhoneのフレームの中で展開されるストーリーに釘付け。

iPhoneに映し出されるハムスターは、精神安定剤を飲まされてやがて動かなくなる。少女エヴの恐ろしい独白。監視カメラに映し出される建設現場で起きた崩落事故。それはフランス・カレーに住む、建設業を営む裕福なロラン一家に降りかかった災難。母親が薬物中毒で入院した事で、エヴは父の家系のロラン家に引き取られる。家族一人一人に隠された秘密。歪な家族関係がやがて迎える「ハッピーエンド」とは——。

冒頭のハムスターと崩落事故の映像が衝撃的。崩落事故の方は巻き戻して観てしまった。生々しい死をカメラを通して見せる事で、無機質な喪失へと昇華している。

エヴ役を演じた少女が凄い!!
透き通る白い肌。あどけなさが残る天使の様な風貌と裏腹に、心の中には悪魔の片鱗が。無表情の中に潜む十代の狂気を見事に体現している。

ロラン家の家長ジョルジュ。おおーー!!「愛、アムール」のジョルジュが前作の設定を引き継いで登場している事に鳥肌スタンダップ!!

イザベル・ユペールが「愛、アムール」と同じくジョルジュの娘を演じているものの、役名が違うので、完全な地続きとしての続編ではないのか。いや…それでも…。ジョルジュがエヴに聞かせた話は、まさに「愛、アムール」のジョルジュその人。

死に魅せられ共鳴し合う孫娘と祖父。
この2人がやがて物語の舵取りとなる。

エヴの父親で医者のトマは、妻アナイスに隠れて、SNSチャットツールで卑猥なメッセージのやり取りを不倫相手と興じている。

ん゛ーーーーー!!
変態的だーーー!!

ジョルジュから建設会社の家業を継いだアンヌ(イザベル・ユペール)は、息子ピエールに専務の役職に就かせていたが、やる気の見えない息子を敢えなく解任。と同時に弁護士のローレンス(トビー・ジョーンズ)と結婚。ピエールは突然の解任の腹いせに彼女達の結婚式に乱入。

繋がっている様で繋がっていない家族関係。
いつでも繋がっていられるSNSとの対比が面白い。

引きのアングルでキャラクターを映し出し、会話は聞き取れない。遠巻きのフレームの中で、何かが起こる。観衆に想像させ、考えさせる余白を与えるハネケなりのアプローチが好き。訳の分からないシーンもいくつかあるので、不親切と言えばそれまでだが、後で考察する時に、この余白は堪らなく楽しい。

「愛、アムール」にも通じる事だが、死を望む者と望まざる家族との間で、ハッピーエンドとバッドエンドの境界線が在る。この映画のラストもまた、ある者にとってのハッピーエンドを描いている。

そして、エヴちゃんよ…。
こんな時でも、バッチリ録画モードなんだね。
背筋がゾクッとして、嫌な感じ。
それでも、僕にとってはハッピーエンド。