りっく

ビースト・オブ・ノー・ネーションのりっくのレビュー・感想・評価

4.5
『闇の列車、光の旅』に続くキャリー・ジョージ・フクナガの傑作。『スラムドッグ・ミリオネア』『シティ・オブ・ゴッド』を彷彿とさせる過酷な現実で生き残る少年のサバイバルに手に汗握る。

オープニングから素晴らしい。テレビに映し出される、子供たちが遊ぶ平和な姿。だが、そのテレビは枠組みだけであり、モニターは取り払われている。この場面だけで、ここから始まる物語はモニター越しのフィクションではなく、現実と地続きの物語であり、少年が海で遊んでいる子供たちの中に駆け出していくラストとの対比構造が実に上手く機能してくるのである。

前半は本当に見事なテンポで一瞬たりとも目が離せない。戦争が勃発した国で中立的な地域で住む少年。だが戦争が激化し母親と妹は車で他所へ避難し、難民に土地を提供したことを根に持つ老婆に嘘をつかれ無実の罪で父親と兄が処刑され、残された少年はジャングルを彷徨い、相手側の組織で「兵士」として洗脳されていくのだ。

その組織の司令官役であるイドリス・エルバが素晴らしい。少年を一人前の兵士に育て上げ、強いチームにするために鼓舞して志気を上げる、そのカリスマ性とリーダーシップは単なる悪ではなく、父親のようでもある。だからこそ、形勢が不利になる後半に差し掛かり、戦争裁判によって裁かれるのを恐れたトップが、司令官を交代させるという判断に抗い、そして部下たちの信頼も失い、最後まで可愛がり期待していた主人公の少年にも背中を向けられた時の孤独と寂しさが入り混じった表情が忘れられない。

本作のハイライトは少年が人を殺して一人前の兵士になってしまう場面だろう。殺すのは敵への物資を運ぶ橋の設計に携わった大学生や、敵の食料を作る農民である。確かに父親や兄を殺した相手に手助けしているといえばその通りではあるが、ナタを振り下ろす際の葛藤と、一旦ナタを振り下ろすことでリミッターが外れ、ナタを何度も振り下ろすたびにカメラに血しぶきがかかる瞬間、「ビースト」が生み出されてしまった。その瞬間に鳥肌が立つ。
https://www.shimacinema.com/2021/04/27/beasts-of-no-nation/
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