ニトー

ちえりとチェリーのニトーのレビュー・感想・評価

ちえりとチェリー(2015年製作の映画)
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日本人向けに作りたかった(それでも海外の映画祭では普通に受けた、とのこと)ということらしく、キャラデザがまさに日本アニメ的な(伊藤を援用させてもらうなら、私はそれこそ「怠惰なキャラクターデザイン」だと思いますが)人形だったのが、ほかのインディー系の日本人ストップモーション監督やスタジオライカ、ウェスなんかとも違うなと。

しかしやたらとメンツが豪華なんですよね。

星野源・尾野真千子といった有名俳優から敦子さんや谷育子さんといったベテランの声優、サンドウィッチマンもちょい役で出てましたし。

主題歌の作詞作曲がミスチルの桜井というのもですし、公式サイトのコメント見たらブラッド・シフ (スタジオライカ アニメーションスーパーバイザー)とか「ズッキーニ」のクロードとか村田朋泰監督とか、ストップモーションアニメ界隈では知らない人はいないビッグネームも寄せてますし、なんだか箔付けがすごいぞ。

まあ「ジェリーと恋と靴工場(だっけ?)」とか「ターミネーター:ジェネシス」でのキャメロンのリップサービスなどからもわかるように、本編で判断するべきであるということは常に頭に置いておりますゆえ、率直に感想を書きますが。


ちなみにストーリーはこんな感じ↓


ちえりは小学6年生の女の子。幼い頃に父を亡くし、母親と二人暮らし。

母親は仕事に忙しく、ちえりの話し相手をしてくれない。

そんなちえりの唯一の友人が、父の葬儀の時に蔵で見つけたぬいぐるみの“チェリー”だった。

チェリーはちえりの空想の中では父親の代わりにちえりと話し、遊び、助言し、守ってきた。

ある日ちえりは、父親の法事のため、久しぶりに祖母の家にやってくる。

そこでちえりを待ち受けるものとは…… 空想と現実の狭間で、不思議な冒険が始まる!



と、いうわけです。

なんかプロットはほとんど児童文学の「ぼくが消えないうちに」かな、と。まあ子供の想像力云々で描くとしたらこんな感じになるのでしょうね。そこにSF要素を足していったりすると「ペンギン・ハイウェイ」になったりするのでしょうが。
チェリーが胴長短足の割に逆三角形な体格で面白いとかカラスの鳴き声がなんかヘボいとか、屋内なのに服がめっちゃたなびいてる(演出であることはわかるが)とか、そういう重箱の隅は置いておいておくとして、ストップモーションとしてはかなり上質な部類じゃないでしょうか。

そりゃ「KUBO」を見たあとではどうしても表情とかはフルアニメーションとミリテッドアニメーションのそれ以上の差があるように見えてしまいますけど、ないものねだりというものですので。それに、あの目のサイズっていうのはある種それをカバーするためでもあったのかなとは思ったり。日本人は目から表情を読み取るのに対し欧米諸国だと口から表情を読み取るといった研究もあるらしく(顔文字なんかその典型例ですが)、日本人向けにというのはそのへんも意図しているのかな。まあ単純にドローイングの日本アニメのキャラデザをコンバートしただけなんでしょうが。

あと負の想像として出てくるどんどらもっけ(超うろ覚え)みたいな、要するに怪物なんですけど、それが明らかに貞子・伽耶子のミックスでちょっと笑えました。や、小さい子が見たら多分泣きますけどねあれ。人型であるぶん、タタリ神的な気味悪さとかはない露骨なホラーデザインなので、やっぱり怖いと思います。

まあでも、やっぱり全体的には日本のアニメーションのクリシェをストップモーションに置換したような印象は強いかな、と。いやまあ、わたしが擦れた人間なのでこういうのが受け付けなくなってきてしまっている、というのは否定しがたい事実ではあるのですが。

序盤で回想を2カットインサートするだけに留めたかと思えば後半でがっつり見せるのはちょっとビビりました。回想の色調とその前後の物置での色調がやや被っているんでは、と感じましたけど、どうなのでしょう。

現実と空想のシンクロ、というかパラダイムに繋がっていくというのはややもすると今敏を思い浮かべそうなものですが、どっこい失敗ケースとして「リアル鬼ごっこ」というのがありましてね。平行世界での危機を回避すると、なぜかもう一方の世界での危機が(説明なしに)回避されるというシーンがありましてね、これはそっちパターンにやや流れているようなきらいがありますです。

うん、たとえばね、暗殺教室みたいに試験のメタファーとして描かれるように、ちえりちゃんが母犬を助けようと何かをする(あるいはお医者さんに届けるまでの道程をアンクル・グランパ的に描くとかね)というのならわかるんですが、現実と空想がパラダイムに描かれるのではなく現実と空想が完全に折り重なっているために恐怖(ここでは死とほぼほぼ=でしょうが)の表象として機能するはずの怪物がほとんど「死」そのもののように描かれていて、怪物を撃退するとなぜか弱っていた母犬が無事出産するのですな。

ちえりちゃん、それもう空想とか想像力とかじゃなくて神の御技ですよ。

まあ、これはこれでありだとは思うんですけど、最後の最後に生まれたばかりの赤ちゃん犬を抱いて家の玄関の前で待ってるシーンはもう少し考えてほしかったですよ。

だってあーた、母犬がその場面にまったく映らないんですもの。母犬からかっさらって親族に見せびらかすために抱いてるようにみえちゃいますよ。ていうか母犬はちゃんと生きてるんですよね・・・? ほらぁ、出産たる大義(ハオ様曰く)の直後の母犬への配慮が行き届いていないからどちらかといえば犬派(猫も好きです)な私のような人間は気になってしまうのですよ。「ワルツ」の蝉ではありませんが、人がボコボコにされているより犬や猫がボコボコにされている方が胸糞悪くなりますし。

前半から中盤で使われていた抑え目のBGMはよかったですな。「ワンダと巨像」を思い浮かべる感じで(と思って調べたらガメラシリーズ」や「ワンダと巨像」、「カラフル」を手がけた大谷幸さんでした。意外とわたしの耳も信頼できるのでは?)。ただ、後半に近づくにつれて露骨に「ぱぁー」としたメロディが強くなっていってちょっと内容と合わせてクドさがキツかったかな。

うん、でもそれなりに楽しめましたよ。ホラー成分のところは個人的に好きですし。
未亡人のママさんの色気とか、尾野真千子の演技も相まって半端ないですし。
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