Niylah

ガタカのNiylahのレビュー・感想・評価

ガタカ(1997年製作の映画)
5.0
悲しくも美しい素晴らしい映画だった。90年代の近未来SF、ほんとに大好き。下手に文章で語るのがもったいないくらい何か漠然と込み上げてくるものがあった。鑑賞後に20年以上前の作品だと知って驚いた。ストーリーが好きとか嫌いとかに関わらず唯一無二の世界観のある映画。『GATTACA/航空宇宙局』DNAの塩基配列の文字と同じ、この無機質さもいい。なぜ今まで1度も観てなかったのだろう。もっと早く観るべきだった。

BGMが物悲しくてなぜか始終胸がぎゅっと締め付けられるような気持ちだった。ずーっと正体不明の息苦しさを感じていた。この世に生を受ける以前から遺伝子の優劣をつけられ、生まれ落ちた瞬間に未来がわかってしまう世界。なんてつまらないんだろう。生きる喜びや未来への夢や希望が芽生える余地がない。そんな世界で、ただアンドロイドのように生きていたって楽しくなんかない。

何故だかわからないけど自然と涙が溢れた。腐りきった世界にもちゃんと心ある人もいて、当然といえば当然なんだけど、それがなんというか闇の中の光みたいな、捨てたもんじゃないなって。映画でよくある近未来SFの人類総管理社会の近未来に激しく嫌悪感を感じるけれど、そんな世界でも絶望せず生きる価値はあるのかもしれない。

映像としてすごく感心したのは、視力の悪い人が裸眼で見る世界がまさにド近眼の私が見えてる世界そのものだったこと。変に感動した。普段コンタクトが手放せない私も裸眼では曲がり角もわからないし車道も渡れない。無人島に持っていくものリストのトップは間違いなく眼鏡。そんな世界が本当に忠実に映像として表現されていてなんだか嬉しくなった、同志のようで。

先天的に生まれ持った素質や能力と、後天的な努力ってどちらが上回るんだろう。私はずっと先天的なものには勝てないと思っていた(今でもほんとはそう思う)。だけど、一見抗うことが不可能なように思える螺旋階段/DNAも、強い意志や努力があれば覆すことが出来るのかもしれない。切なさの中にも希望が持てる映画だった。"切ない"っていう感情、大好きだ。何故こんなにも感情を抉るものがあるんだろう。これだから映画鑑賞はやめられないよ…。
Niylah

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