真田ピロシキ

ガタカの真田ピロシキのレビュー・感想・評価

ガタカ(1997年製作の映画)
5.0
一番好きな映画は何かと聞かれたら本作を挙げる。そう遠くない未来の話。人工授精で優秀な遺伝子を選別して子を作ることが一般化した社会。自然の摂理に任せて産み落とされた不適正者ビンセントは社会システムに一度は無条件に弾かれながらも宇宙飛行士の夢を叶えるため下半身不随となったエリート青年 ジェロームの遺伝子を装いながら不可能と思われた夢に挑む。ジュード・ロウ演じるジェロームの美青年ぶりはうっとりしそうなほどで完璧なる遺伝子の結晶を体現している。

努力したからって全てが報われはしないし大多数は夢を叶えられない。そして人間は平等ではなくスタート地点から差がつけられてもいる。だから何だって言うんだ?どんなに望みが低くったって可能性が0じゃない以上は不可能とは言い切れない。失敗を積み重ねながらも挑戦を重ねることに意義があり、その挑戦を広く認めたからこそ人類は進化できる。本作は宇宙飛行士の特別な事例についてのみ語った物語ではない。時に立ちはだかる社会の様々な不条理とそれに付随する「現実を見ろ」という分かったような言葉。そんなクソッタレどもに中指を立てるSFだ。冷たい科学の支配を表すように世界が汚れなくCOOLに描かれている中、ビンセントが戻ることを考えずに泳いだ時、車が見えないのに道路を横断しきった時、ジェロームが這いずり回りながら階段を昇りきった時の無様でありながら必死に挑む姿が映画に強い熱を与えている。ディストピアSFと言うと皮肉的で不幸な結末が多いが、そんなことお構いなしとばかりに真っ当すぎる人間賛歌を描いた姿勢にも賞賛を送りたい。このくらい愚直なまでに理想主義を貫いて良い。

本作が公開されて近い時期は「学歴社会の日本にはあり得そうな未来」と言われていて自分も頷いていた。しかし最近訴訟が起こされた旧優生保護法の記事を見ると未来どころか実はとっくの昔に通ってた道だった。劣った人間は間引くか、そこまでしなくても片隅に追いやろうという思想は根強い。本作の標準的な人間がそうであったように、それが良いことだと思ってる者も多いだろう。それにNOを訴えるためにも語り継がれていって欲しい映画。