ケイ

ガタカのケイのレビュー・感想・評価

ガタカ(1997年製作の映画)
5.0
何度見ても、初めて映画館で見た時と同じだけ、あるいはそれ以上に心動かされる大好きな作品。
遺伝子操作によってマイナス因子を排除された子を生むことが普通になっている世界で、自然妊娠により近視や心臓疾患などのハンデを持って生まれた「不適正者」ヴィンセント。幼い頃からの夢である宇宙飛行士になるために、ブローカーを介して最高レベルの遺伝子を持つ「適正者」ジェロームの生体情報を“借りる”こととなり――。
60年代風のレトロな服装や自動車、自然豊かな都市の風景など、未来っぽさを強調しない未来ぶりがかえってスタイリッシュで、遺伝子操作された美しい適正者たちが居並ぶ様と合わせてSFらしい不思議な非現実感をもたらす。けれどそんな世界で、適正者でありながら挫折者として生きているジェロームと、不適正者でありながら適正者として結果を出し続けるヴィンセント、そしてそれぞれに割り切れない思いを抱いている周囲の適正者たちの、人間くさい危うさがリアルで、決して絵空事になっていない。
ストーリーにはミステリー要素もあるが、この作品はやはりヒューマンドラマ。データにはデータのリアルがある一方、生命が持つ不確定な可能性の力というものも間違いなくあり、人が夢を持って生きるためには、その可能性は決して否定されてはならないということ。あるいは、否定されてもなお、夢を持ってしまうのが人間だということ。
自分の可能性を決めるのは自分自身、と言ってしまうと陳腐だが、データに縛られ自分を地上に縛りつける適正者たちと、可能性を信じて宇宙を目指すヴィンセントの対比に、そう思わずにいられない。
押し付けがましくないトーンで沁みてくる丁寧な表現の終着点にふさわしい、ラストシーンのひとひねりが本当に良い。数年ぶりに鑑賞したが、ストーリーも音楽も映像も素晴らしく、まだしばらくは私の中のナンバーワン映画であり続けるだろうな、と改めて思った。
ケイ

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