えんさん

ジャック・リーチャー NEVER GO BACKのえんさんのレビュー・感想・評価

4.0
夜中、あるレストランにてケンカが発生したと、保安官事務所に連絡が入る。保安官がかけつけると、そこには何人もの男たちが倒れており、店内では一人の男が佇んでいた。その男、元米軍秘密捜査官ジャック・リーチャーは、逮捕しようとする保安官にある予言をし、その場を切り抜けるのだった。リーチャーは軍での仕事の依賴元であるターナー少佐のもとに立ち寄るが、彼女はスパイ容疑で逮捕されたことを告げられる。何者かの陰謀の匂いを嗅ぎつけたリーチャーは、彼女を救うべく動き始めるのだが。。リー・チャイルドの小説を映画化した「アウトロー」の続編で、「ラスト・サムライ」のエドワード・ズウィック監督&トム・クルーズ主演のコンビが復活した作品でもあります。

前作「アウトロー」では孤高で、かつダークな一面をも垣間見せるジャック・リーチャーを演じたトム・クルーズですが、本作では、リーチャーに人間的な一面を垣間見せ、キャラクターとしての幅を広げた作品といえると思います。ところが、この作品の方向性はちょっと賛否両論あるかなーとも感じます。というのも本作を観る前に、前作をDVDで見直したんですが、前作はリーチャーの孤高さというカッコよさは光るものの、作品のリズムというか、テンポは今見直してみると少し緩慢というか、ゆったり過ぎて少々ヤキモキしてしまうのも事実。それが本作では、テンポも良くなったし、リーチャーが想いを寄せる人と新たに子どもがいた疑惑まで持ち出してきて、前作にはなかった人間味が増え、作品のテンポも格段によくなった。ただ、それは一般的なアクション映画っぽくなったということでもあり、分かりやすい分だけ、作品の特徴がなくなったともいえるかもしれません。

それが端的に出ているのが、アクションシーン。前作では、ロバート・デュバルと組んだ終盤のアクションシーンは(デュバルと組んでいるからか)まるで西部劇のような、本当に男と男のガチンコのぶつかり合いみたいな渋いカッコよさがありました。それが本作では迫力やスピード感は増したものの、昨今のアクション映画っぽくなってしまった。僕は本作を観て、何度まるで「ジェイソン・○ーン」っぽいと思ったことか(笑)。冒頭のレストランのシーンは「アウトロー」でのヒーロー像を感じたものの、その後の展開やスピーディーに物事をこなす能力は、まるで”○ーン”さながら。クルーズ自身が、「ミッション・インポッシブル」で陽なイメージのアクションを進めているとしたら、この”ジャック・リーチャー”シリーズでは陰のイメージをつけたいのではないか。ならば、今後はマッド・デイモンとどう違いを出すかが勝負なのかなと思ったりします(笑)。

と書きつつも、僕はこの変化が俳優トム・クルーズの新たな一面を見せてきたように思います。それは成長した子どもを持つ、父親としての顔。彼自身、例えば、「宇宙戦争」などの作品で父親役を演じたりしてますが、それは10歳以下の少年少女の父親。それが本作では、思春期(サマンサ役のダニカ・ヤロシュは20代手前ですが)の少女の父親という役柄を演じたりしています。世間の20代を子を持つ父親というと、もうミドルエイジ真っ只中。若い若いと思ってきたトム・クルーズ自身も、年齢を見たら驚きの50代中盤なのです。もちろんカッコよさも体力もあるので、若い年齢をも演じれるのでしょうが、あえて自分の歳に見合った役柄を本作で挑戦してきたのだと思います。若い役柄のアクションスターとしての一面は引き続き「ミッション・インポッシブル」シリーズで、ミドルエイジの玄人スターは「ジャック・リーチャー」シリーズでという境界線を引きつつ、前者はいずれ若い俳優にバトンタッチしていくことも視野に入れているのでは、、とも感じるのです。その意味で改めて本作を観ると、非常に味わい深いものも感じる。リーチャーの生き様が、まさに俳優トム・クルーズの今後の生き方も示唆しているような重要な作品になると思います。

前作の「アウトロー」の監督クリストファー・マッカリーは、「ミッション・インポッシブル ローグ・ネイション」の監督から次の「ミッション・インポッシブル」シリーズの監督も決まっているので、引き続きクルーズのアクションを別シリーズで上手く引き出してくれるでしょう。それにしても、「ラスト・サムライ」もそうでしたが、ズウィック監督&トム・クルーズというコンビは賛否両論な作品を提供してきますね。。