ローズバッド

君はひとりじゃないのローズバッドのネタバレレビュー・内容・結末

君はひとりじゃない(2015年製作の映画)
3.0

このレビューはネタバレを含みます

この地味で、不明瞭なストーリーの作品。
自国ポーランドのアカデミー賞で主要4部門(作品・監督・主演男優・主演女優)を獲得したらしい。
選定方法はわからないが、ともかく、国内最大の映画賞を、劇伴音楽もないようなストイックな演出の映画が独占している。
ポーランドの映画業界は、ずいぶん大人向けに成熟しているのだなぁと思う。

おおざっぱな一般論だが、
日本では「映画は涙するためのもの」だという思い込みが、あまりにも蔓延している。
いっぽう、ヨーロッパでは「映画は芸術の手段のひとつ」であり、喜怒哀楽では割り切れない「心の不可思議さ」を描く作品が多い。
そして、その方法として「コメディ」の使い方が、非常に巧みである。

『君はひとりじゃない』も、そういったヨーロッパらしい、変則コメディの秀作である。

真夜中の部屋で、両腕で両足をつかんで歩き回る娘の奇行、唖然と眺めるしかない父。
ジャムパンとペンネをミキサーにかけた、気持ち悪いドロドロをスプーンで食べさせられる。
団地の通路でペッティングする若い男女に、ムラムラきちゃった中年女性セラピスト。
だらしないヌードで“ビキニ”ダンスをする妻、微笑んで見守る夫、バカ夫婦の愛おしい回想。

などなど、徹底して「意地悪な笑い」を、楽しむことができる。
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冒頭シークエンス。
車を運転する検察官の父・ヤヌシュ、雨がっぱの後姿。
くもった車窓からぼんやりと、湿った緑の林。
縊首自殺現場の調査、木々の枝葉の絶妙な前ボケ、後ろボケ。
首吊りヒモを切る俯瞰ショット、手元にピント、落下する人体のボケ。
のそのそと起き上がり、立ち去る自殺者と、茫然と見送る警察官たち、引きのロングショット。

このシュールな冒頭を筆頭に、フィックスを中心とした撮影が非常に美しい。

曇り空、いつも薄暗いヤヌシュの家、真っ白な床と壁のセラピールーム、淡い色のタンクトップ姿で集う痩身の女たち。

ピントの被写界深度、服装と背景の色使い、ガラスへの写り込み、窓から差し込む光…など、
ひとつひとつのカットへの丁寧な工夫が感じられる。

特にライティングが印象的なのが、ラストシーン。
刻々とうつり変わる朝焼けの光、その変化をあますところなく描写している。
特別な時間帯、ほんの3分程度、自然光の表情の変化が、心情の変化と共にある。
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主要キャスト3名は、皆、好演している。
特に、Facebookで発見された新人、娘・オルガ役のユスティナ・スワラは、線の細い猫背に、ギョロ眼が印象的。
ボサボサ頭と、ゆるい雑なファションに、『ニキータ』の序盤のパンク娘を思い出す。

昨今、ヨーロッパ映画で「団地の暮らし」描写を見ることが多い。
現在のヨーロッパ社会を描くうえで、重要な舞台立てなのだろうか?