ちろる

灼熱/灼熱の太陽のちろるのレビュー・感想・評価

灼熱/灼熱の太陽(2015年製作の映画)
3.6
セルビア人女性とクロアチア人男性による時代の異なる3つの物語。
1991年クロアチア紛争前夜に描かれるある敵対する民族である恋人同士に起きた悲劇。
2001年の戦争集結後、植えつけられた敵民族への憎しみが拭いきれない男と女の切ない恋の物語。
2011年平和の訪れた若い男女の愛の再生。
時代ごとに若い男女が縛られるものがそれぞれ変わっていくけれど、長きに渡った「民族紛争」はそう簡単に人々の心から忘れさせることは出来なくて、それが結ばれるべきだったいくつもの愛を引き裂いたというメッセージがやんわりと表現されていますが、しかし、敢えて戦争のシーンも全く出していない為、紛争についての悲劇はあまり伝わってこず、彼らにつきまとう民族同士の憎悪がなかなかわかりづらい。
日本人だから云々と言い訳するのは許されないのでしょうが、ちょっと前まで仲良くしてたすぐ近くに住んでる人が◯◯人だから殺していいですって言われる紛争の中の人間関係は想像するのはなかなか難しかった。
ただ、家族単位で縛られる窮屈さとかそういったものはどこの国も変わらないわけで、戦争とは無関係であっても、戦争が集結した後であっても家族単位の思想からは自由になれないジレンマみたいなものは台詞が少ない中よく描かれていたとは思う。

クロアチア紛争のロミオとジュリエットと呼ばれる本作ではあるが、何も特別なラブストーリーではなく、淡々とした演出ゆえにこういう男女があちらこちらにいたのだという事をリマインドさせてくれるた。
だから本当はどちらかというと誰も気に留めない戦争の裏側に過ごす人々を描いた「この世界の片隅に」的要素での解釈で観た方がいいのかもしれない。
一見テーマは悪くないのに何か作品に対する脱力感が漂うので、「この世界の〜」と同じくらいのエネルギーで作ってほしかったな。

因みに3つの別々のラブストーリーを同じ俳優によって演じさせる意味があるとは思えず、逆についつい何か繋がりがあるのではと無駄な推測をしながら観てしまったので、可能であれば別の男女で見せてもらいたかったというのが正直なところ。
1番の盛り上がりあるシーンがブッ飛んで盛り上がるレイブパーティーのシーンというのもこの作品としては問題がある。(めちゃ楽しそうではあったけど、、)
ちなみにこの作品の中で唯一好きだったのは3つのストーリーに登場する海のシーン。
灼熱の太陽に抱かれる空と。仄暗いアドリア海の映像が画面で分割されるシーンは本当に美しくて素敵だった。
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