ホン・サンス、名前は知っているのに一本も観てなかった。なんで名前だけ知ってたのかもよく分からないけど。
そこまで過度な期待もせず、わりとニュートラルな心持ちで観られたと思うけど、俺は好きだったなー。
分岐する多世界解釈とも取れるし、そうであってほしかった現実への後悔や憧れとも取れるし、正直者は愛されるという至極真っ当な教訓を説いているとも取れるけど、それは特に明言されていないし、どうとでも取ってくれて構わないということだろうと思うし、自分としてもそこはあまり気にならなかった。
どちらの現実も確かに“ありえた”という手触りがあって、それが分岐していく瞬間がカメラがズームする瞬間にもそれ以外の瞬間にもたくさん感じられた。それは全く同じシチュエーションでは無いにせよ、自分のこれまでの人生でも感じてきたことのある瞬間だ。
画面上に現れる人物は限られた人数で、ほとんどがあの二人のダイアローグであるにも関わらず、飽きることなく最後まで観られるのはそこに会話の台詞の意味以上の情報がたくさん含まれていたからだと思う。それが長回しの映像の中にしっかり定着していたから。
ホン・サンスってどんな人だろうと調べてみると真っ先に出てくるのはキム・ミニとの関係。その関係が健全であるかどうかは別としても、それも納得してしまうぐらいキム・ミニは魅力的だった。