emily

バーバリアンズ セルビアの若きまなざしのemilyのレビュー・感想・評価

3.7
 コンボ紛争中のセルビア、仮釈放中の青年ルカは仲間たちと地元のサッカーチームを応援して飲んで騒ぐのが日課で、仕事も夢も持ち合わせていなかった。ある日社会福祉士から失踪した父が自分の事を探していることを聞く。コンボ独立反対デモの日ルカ達も参加するが、仲間たちはただ盗みを働きお祭り騒ぎを楽しんでるだけだった。違和感を感じたルカは失踪中の父に会いに行くためバスに飛び乗る・・・

 ほぼ素人勢の役者人の中でもルカを演じた青年の表情、特に澄んだ目とその奥の葛藤が緩やかに表情と交差する演技が絶品だ。仮釈放中で、母親は働かず家でたばこばかり吸っている。いろんな問題を引き起こすが、どちらかというと結果的に大きな問題になってしまったという感じで、彼自身に計画性もないし、ずるがしこさも全くない。ただただ素直で人よりちょっと不器用で、人並みの愛を求めているだけのように思える。青春の痛みとコンボ紛争という社会背景が見事にマッチし、何かしたいが何もできない。大きな物に常に操られていて、自分のコントロールできない部分で、すべてが思うように回らず、それでもそこから逃げる事が出来ない。

 いやそこから逃げたところでどこに行っても同じなのだ。今いる場所で”なにも”手にできないなら、それは場所を変えても同じ結果なんだと思う。葛藤しながら外に目を向けながら空虚を感じながらも、やはり今いる場所へ戻っていく。器用に生きる事は出来ない。いや不器用だからいいんだ。流れる血の痛みを感じながらも確かに自分はここに居る。どこに行っても自分が変わらない限り同じなのだ。自由はいつだって自分の心の中にある・・
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