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コインロッカーの女のmaverickのレビュー・感想・評価

コインロッカーの女(2015年製作の映画)
4.8
凄い衝撃。これは傑作だ。自分の中で『アジョシ』を初めて観た時の衝撃と近いものを感じた。激しいまでの暴力描写がありながらも芸術性がある。これぞ韓国ノワール。主人公はいわゆるコインロッカーベイビー。捨てられ、駅のホームレス達に拾われ共に過ごしていた女の子はある日、裏家業の組織の女に売り払われる。そこでは生きるために金を稼がなくてはならなかった。稼げなければ子供といえど容赦なく用済みとみなされ処分される。生きるためにたくましさを身につけた女の子は、成長して組織の女の忠実な部下となっていた。この主人公の少女を演じたキム・ゴウンの凄さに圧倒される。まだ可愛らしい少女の年代でありながら、男と見間違えるほどのスレた感じ。煙草を違和感なく吸い、借金取りとして容赦なく相手をぶちのめす。こういう世界でずっと生きてきたんだなという主人公のバックボーンを初見ですでに感じさせる。そんな裏の世界で冷酷に生きてきた主人公も、女としての心に目覚める。『もののけ姫』でもあるような、女に目覚める相手に出会ってしまうのである。とまどいを隠せずにドキドキしてしまう主人公の見た目と内面とのギャップが可愛らしくて微笑ましい。ただ、この下りはちょっとベタで予定調和すぎるかなぁとも。しかしながら本作の真髄はこんな所ではなく、この後の怒濤の展開にある。好きになった相手のため、組織のボスであり育ての母を裏切ることとなる。同じように育てられた兄弟達とも敵対することになってしまう。ここで壮絶な死闘を繰り広げるのがリベンジもののパターンであるが、戦う相手は家族である。主人公の葛藤が痛いほど伝わってくる。戦いたくないと。それは兄弟も同じであり、そうせざるをえないながらも戦いの中で悩み苦しむお互いの姿は胸を打つ。ここは『ファイ 悪魔に育てられた少年』の殺人稼業を行う家族に息子として育てられた主人公のそれと同じものを感じた。本作の主人公はコインロッカーに捨てられ、幼くして裏家業の世界で育つ。その世界での生き方しか知らない。彼女が出逢い恋する相手との微笑ましい場面を見ていると、彼女にもこうした普通の幸せな生き方があっただろうにと思う。彼女は苦しむ。組織を裏切り、親兄弟と殺し合わなくてはいけない状況を作り出し、自分はどうすればいいんだろう、自分はどうすればよかったんだろうと。単なるバイオレンスアクションの復讐ものとせず、主人公のみならずこの世界でしか生きれなかった者達全員の悲しい生きざまをひしひしと感じさせる作品性が素晴らしい。人身売買などが横行する韓国の裏の世界を描いた社会問題が基になり、こうした深みのある訴えかける物語が生まれ出るのだなと。自らの運命を問う主人公イリョンを演じたキム・ゴウンは圧巻だが、韓国が誇る大女優のキム・ヘスが演じた組織の母がこれまた凄い。貫禄があるだけでなく、彼女にもこうした生き方しか出来なかったであろう悲しさを感じる。幼い頃から育てあげた娘に裏切られた母の心境はどんなものか?そこに愛はあるのか?そこも本作の見所である。こんな悲しい物語は映画の中だけでいい。こんな生き方しか出来ない人々を生み出すような社会にしては断じてならない。