ベルサイユ製麺

昼も夜ものベルサイユ製麺のレビュー・感想・評価

昼も夜も(2014年製作の映画)
5.0


黒バックにローマ数字の“I”
薄曇りの空を背景にノースフェイスの黒いダウン、黒っぽいネックウォーマーの若い男
モノローグ…気温・株価・ガソリン価格、車の売買の事。

目を閉じて両腕を翼の様に水平にあげる
モノローグ…「自転車を漕ぎながら 君のことを思い出す」
自転車は枯れ草の土手の上を走っている。
「漕いでいなくても 君のことを思い出す」

黒バックに縦書きで
“昼も 夜も”

山あいのロードサイド。ごく普通に寂れた中古車販売店。ドカジャンを羽織った先程の男と作業着姿の茶髪の若者が車の整備をしている。
突然、店の前に赤いMINIが急ブレーキ。助手席のドアが開き、車中から男の怒声。助手席からは女?モッズコートにマフラー、細身のデニム、突っ立っている。男は捨てゼリフを残し急発進。女はペットボトルの水を怒りに任せたみたいにブチまける。
呆気にとられ眺める男。振り返った女、は若く整った顔つき、だが目が、まるで抜き身の刃物の様に鋭い。目が合い、思わず大きく目をそらす男。女はズカズカと歩み寄り
「ねぇ!ここどこ?」
「ねぇ?きいてんだよ!」
「おいっ!このクソど田舎どこなんだよ!おい!耳が聞こえないのかよ⁈」
乱暴に放たれる言葉に耳を貸す素振りも無く、事務所に入っていく男。
女は問い詰めながら事務所の中にズカズカ入り込む。男はめんどくさそうに名刺?を出し、現在地、とバス停の場所を伝え追い返そうとするとする。「それどこだよ、どこに繋がってんだよ?」女が事務所から出ると、ゆっくりと先程の赤MINIが近づいてきて、運転席から女のバッグを投げ捨て去っていく。事務所の戻ってきた女。「ねぇ、駅まで連れてって」とやや甘えた様なトーンで。
男「バスが通ってる」と言い捨て、鳴り出した電話に出る。痺れを切らし飛び出す女。

バス停の凄まじい時刻表を見て立ち尽くす。

事務所でエスプレッソを淹れる男。店先に目をやると、先程の女。並べられた中古車の一台に歩み寄り乗り込む。
男がドアを開け降りる様に促すと「それが客に対する態度?この車あたしが買うから。ほら手付金」と千円札を出す。「とにかくしばらく試乗するんだから1人にしてよ!」…根負けした男、店に戻っていく。

夜。事務仕事も終え、灯りを落とす。
車のドアを開ける音に目を覚ます女。
ダウンジャケットに着替えた男、車に乗り込みながら「送るよ」
「じゃあ、 あんたの家まで」
「…よせよ」
「じゃあ東京まで」
「…わかった」走り出す、真っ暗な車内。
「あんたさぁ 彼女いんの」
「いる」
「へぇ… うまくいってんの」
「何をうまくいってる、と言うかによる」
「…そう言う言い方する男いるけどさ、」
「 。」
「 ?」
「 …」
女は子供の頃に飼っていた犬の思い出の話をする。亡くなった、背骨の曲がった、真っ直ぐ走れなかった犬の話。夢にも出た犬の。
「あんた見てるとソイツの事思い出すよ。犬っぽいんだよ、アンタ」

男は問われ、自分の話をし始める。亡くなった父から店を継いだ事。車の事しか知らない、と言う男を女はからかう様に受け流す。その表情はしかし侮蔑の様では無い、としか。

ネオンとヘッドライト。新宿二丁目。
「ちょっと車停めて」
「家、この近くか?」
「あたしの⁈ ねえよそんなもん。探すんだよ、これから」
疲れとも諦めと笑みともつかぬ表情でシートベルトを外し、ドアを開け、
「じゃあね。」
背を向け、夜の新宿に歩いていく女。
運転席で、どうも出来ず、しかし何か言いたげな表紙で見送るだけの男。流れていくヘッドライト。サイレンの音。
男、ダッシュボードの“手付金”を自分の財布にしまい、車を発進。

モノローグ
「1月16日 夜
久しぶりの東京
相変わらず人が多い
ゴミゴミしている
空気が汚い
空から星が消えていなくなっている
“かえで” 今日は妙なおんなに会ったよ
それを君に話せるのは いつになるんだろう」

新宿の街。渋滞気味。信号待ちの人たち。街の灯り。