KnightsofOdessa

大恋愛のKnightsofOdessaのレビュー・感想・評価

大恋愛(1969年製作の映画)
4.0
[可愛い秘書への夢と妄想と] 80点

1969年製作の長編四作目にして、初カラー作品。テーマは"妄想"であり、男女様々な登場人物の様々な妄想が映像で語られていく。エテックス演じる主人公は勿論、彼の結婚生活があまりにも安定すぎるために不貞を疑う近所のオバチャンたちの噂話、新人秘書の女の子を口説く練習を手伝うエテックスの親友などの視点で妄想が広がっていき、実際にどこまでが現実でどこからが妄想なのかも分からなくなってくる。その点、矢継ぎ早にボケていた『ヨーヨー』に比べるとやや火力不足であるのは否めないが、平和と同値にある退屈さの中で虚空を見つめるエテックスの憂鬱そうな顔は、紛れもないヨーヨーのそれで嬉しくなる。

これまでの女性遍歴を振り返る冒頭は、幼馴染のイレーネとマルティーヌ、同級生のテレーズなどテンポよく振り返っていて、最終的に全員を花嫁にする妄想に帰結させるのは『キートンのセブンチャンス』っぽくて面白かった。その後、フロランスと結婚して幸せすぎる結婚生活を送るが、新人秘書のアニエスが可愛すぎて動揺する。エテックスはアニエスについてコミカルな妄想と行動への躊躇を繰り返す。最も印象的なのはアニエスへの淫靡な妄想としてベッドに車輪が付いて公道を爆走し始める一連のシーンだろう。ベッドについての妄想が、次第に車の方に乗っ取られていき、事故や渋滞が起こり始める不思議な世界観は妄想というより夢に近い(なぜか苛烈な渋滞に『ウィークエンド』を思い出してしまう)。映画は夢のようなもの、というスタンスはどの作品にも共通しているようだ。

エテックスの仏頂面はキートンに似ているのも彼を想起させるポイントなんだろう。エテックスはニッコリと笑ってくれる分、キートンよりも人懐っこくて可愛らしい。
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