Inagaquilala

ジャッキー ファーストレディ 最後の使命のInagaquilalaのレビュー・感想・評価

3.9
予想していた内容とはかなり異なり、良い意味で裏切られ、なかなか見応えある作品だった。

主人公はアメリカ合衆国第35代大統領ジョン・F・ケネディの夫人、ジャクリーヌ・ケネディ(ナタリー・ポートマンが好演)。暗殺の1週間後に行われたジャクリーヌ夫人へのインタビューの場から、物語はスタートする。

大統領国葬の4日後、マサチューセッツ州ハイアニスのケネディ家の別荘をひとりのジャーナリストが訪れる。作品の中では名前は明らかにされていないが、史実と照らし合わせると、「LIFE」誌のセオドア・ホワイトがモデルだと思われる。ジャーナリストのインタビューに答えながら、ジャクリーヌ夫人が、大統領暗殺から国葬までの4日間を詳細に振り返るというかたちで物語は進んで行く。

彼女の回想で再現されるシーンは実にリアルに、細部に至るまで描写されていく。夫人は大統領が銃撃に倒れた後も、着ていたシャネルのスーツを脱ぐことなく、夫の血がついた衣服そのままで、暗殺現場のテキサス州ダラスから大統領専用機に乗り、ワシントンのホワイトハウスまで帰り着く。ひとり部屋に戻り、そこで初めて血染めのスーツを脱いで、シャワーを浴び、夫の血を洗い流す。チリ出身の監督パブロ・ララインの描写は執拗だ。

そして、回想の4日間のメインの物語は、暗殺そのものではなく、国葬に至るまでのジャクリーヌ夫人とホワイトハウスのスタッフとのやりとりだ。同じく暗殺された第16代のリンカーン大統領の葬儀の模様を調べる。大統領の柩と共に歩いて行進したいという彼女の要望を安全確保のため拒絶するスタッフとのせめぎ合い。大統領執務室を空けて欲しいという新大統領からの申し出。住居も荷物を整理してふたりの幼い子供と早急に出ていかなければならない。

それらの夫を失った「喪主」としての「仕事」がかなり詳しく描かれていく。そこで降りかかってくる雑事は、規模の差こそあれ、一般の家族と一緒で、かなり人間臭く、そこに観る側は重ね合わせてリアルなものとして観賞できる仕掛けになっている。

製作はナタリー・ポートマンが主演した「ブラック・スワン」のダーレン・アロノフスキー監督が出かけているが、彼が監督に起用したのは、チリのピノチェト独裁政権の終焉を描いた「NO」という作品でアカデミー外国語映画賞にノミネートされ注目を集めた監督、パブロ・ラライン。

彼にとっては初の英語作品となるのだが、ここ最近のハリウッドは広く世界各地から才能をリクルートして、作品を撮らせる。その目のつけどころの鋭さと懐の深さには感心する。

4日間の出来事を見事に組み立て直し、見事なドラマに仕立てあげたパブロ・ララインの次回作にも期待したい。一説にはブライアン・デ・パルマ監督の「スカーフェイス」をリメイクするという話もあるが、もし実現すればとても楽しみな作品となる。
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