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マッスルモンクのnetfilmsのレビュー・感想・評価

マッスルモンク(2003年製作の映画)
3.8
 大切な人を失ったことが原因で、他人の前世での業(カルマ)が見え、その人の死因を予知する能力を有したビッグガイ(アンディ・ラウ)。しかし、そのことで因果の非情さを悟り、僧衣を脱ぐ結果となってしまった。いまではその類い希な筋肉美を活かしてストリッパーをするなど享楽的な生活を送っていた。そんなある日、ひょんなことから彼は一人の女性刑事フンイー(セシリア・チャン)と出会う。しかし、彼は彼女が背負う醜悪なカルマを見てしまう。彼女の前世は中国人を虐殺する日本兵だった。彼は非情な因果の環からフンイーを救うべく立ち上がる。今作を強引にジャンル映画の枠にはめるとしたら何になるのだろうか?そもそも二つの事件のうちのストリップ・バーでの事件は明らかに喜劇に属するシークエンスであり、2つめの惨殺事件のシークエンスは猟奇ミステリーに分類される。混じり合わない要素が強引に一つになった後、主人公であるアンディ・ラウの特殊能力が明らかになる。ここでは映像がオーバー・ラップしてわかりにくいが、彼が見ている白黒映像は前世で行った蛮行のイメージである。前世での特殊な因果が今世にもつながっており、アンディはすぐに死ぬ人を見分ける力を持っていることが明らかにされる。彼の見た映像の中でフンイーはじきに死ぬことがわかった主人公は、彼女の命を守るために葛藤する。

 これまでのジョニー・トーの物語は、どこまでもシンプルで相関関係や対立構図も実にわかりやすかったが、今作において物語は二転三転し、混迷を極める。中盤まではアンディがバイクの運転に苦戦するなど笑える場面が度々訪れるが、中盤以降はまず今世と前世の区切りが分かりにくく、登場人物たちの把握も難しい。ボクシングの場面で、アンディを倒したのかいったい何者でどういう役割を負っているのか?また深夜の闇の中で、屋上に逃げ込んだスパイダーマンのような男も何者でどういう役割を負っているのか?初めて観た中で正確に把握するのは難しい。ビッグガイの筋肉の肉襦袢は『ダイエット・ラブ』の経験が活きたのだろう。特殊メイクでの体重の増減は『ナッティー・プロフェッサー』や『ヘアスプレー』などアメリカ映画に参考映像があるが、ルックスの優劣が関係ない世界へと舵を切る脚本において、アンディ・ラウの筋肉を強調する判断はある意味一番暴力的であり、この後のジョニー・トーのフィルモグラフィにおいてもほとんど例がない。そのくらい異色の作品であり、歴史に名を残す怪作である。しかもジョニー・トー久々のカンフー映画であることも忘れてはならない。
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