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海賊とよばれた男のCOZY922のレビュー・感想・評価

海賊とよばれた男(2016年製作の映画)
3.6
【夢があり、志があり、人がいて、形に成る】 どこか『プロフェッショナル 仕事の流儀』を思わせる、よく言えば信念が強く、辛めに言えば破天荒で無茶な手段も厭わない男のサクセスストーリー。出光石油を立ち上げた出光左三をモデルとした百田尚樹原作小説を映画化した本作。主人公は、日本人としての誇り、強引さと表裏一体の求心力とカリスマ性、類い稀なる発想力と実行力に富んだ人物。ビジネスものとして とても面白く、かつ、実在の人物をモデルにした割にはエンタメ性も高く、それでいて骨太な作品だと思った。

主人公 国岡鐵造は熱い男だ。次々と襲いかかる困難を物ともせず、窮地に追い込まれても不屈の精神力と行動力で這い上がり苦難を乗り越える。人を巻き込み動かす力にも秀でている。しかし、うまくいったからいいようなものの、冷静に見るとその経営手法はバクチ的でかなり強引な感は否めない。けれど、時代がそれを余儀なくさせたとも言える。海外の大手石油メーカー、国内の競合他社、配給公団などからの圧力や嫌がらせを受けながら、大正から昭和、2度の大戦を経ての終戦後復興という激動の時代を闘い抜くにはあのくらい強引なまでの牽引力が必要だったのだろう。

現代だったらどうだろうか。どんなに時代が進んでも原点は人にあるはず。本気の志と行動は人を動かすはず。だから彼の心意気は必ずや何かを成し遂げはすると思うけれど、あの時代ならでこそ輝けた部分もあるのではないだろうか。時代が違えばブラック企業と呼ばれかねない要素がそこかしこに垣間見えるのも事実。現代の風潮の中に彼のやり方を放り込んだら果たしてどんな化学反応を起こすのだろうか。見てみたい気がする。

20代から晩年までを熱量のみなぎる演技で演じ切った岡田准一は素晴らしかった。『永遠の0』『蜩の記』と来ての本作で俳優としての足場を確かなものにしたように思う。堤真一、鈴木亮平、吉岡秀隆、國村隼など脇を固める俳優陣も良かった。

ちょっと残念だったのは後日談。個人的にはあの部分は蛇足だった気がする。起業家と言えども1人の人間。家族愛の描写があってももちろん違和感は無いのだけれど、家族との強い絆を感じさせるエピソードが薄かったこともあり、あの部分がなんとなく取って付けたように見えてしまった。せっかくの女優陣が活かし切れていない気がしたのは私だけだろうか。組織のマネジメントに長け、困難を力に変えて進んできた男の映画なら最後は あの船が帰還したところで締めくくってほしかった。
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