「これは作り物じゃなく本物の『ロッキー』なんだ」。モデルとなったビニー・パジェンサ本人はそう言って涙したという(公式ウェブ)。
うぬぼれ屋のボクサー、ビニー。世界タイトルを獲得するも、自動車事故で首を骨折する。医師から選手生命の終わりを告げられるも、ビニーは安全だが復帰の道を絶たれる手術ではなく、リスクの高いハローという手術を選択。首回りに金属の装置を付けるビニーの姿はあまりにも痛々しい。誰もが復帰はありえないと思い、プロモーター、ガールフレンドは去っていく。
それでも、自らの復活を信じて、あきらめないビニーは、自宅の地下室から命がけのトレーニングを開始する。それに気づいたトレーナーと二人三脚で王座奪還を目指す。
クライマックスの復帰戦でグッときたのが、ラウンド終盤、劣勢を跳ね返すきっかけとなるトレーナーの一言。交通事故からの件をじっくり観てきたのは、この一言のためにあったと言っていいくらい。
そして、何がビニーを突き動かしたのか。次の会話がその理由を端的に示している。
「復帰はあきらめろ。命にかかわると医者が言ったろ」
「どんな命だ? 寝ているだけの命か?」
命がけのビニーの挑戦は、試合に勝てば称賛され、無残に負ければ非難を浴びるかもしれない。しかし、勝っても負けてもビニーが自分自身に納得していることは間違いないだろう。
才能はあるけれどいい加減そうなキャラクターのビニーに、いまいち入り込めなかった。しかし、人の美しさは、命をかけてでもやりたいことがあり、それをやるかどうかで決まってくるのであって、私の感情とは本質的に無関係なのだ。ビニーのおかけで、少しだけ自由になれた気がした。
●物語(50%×4.5):2.25
・復帰戦のトレーナーの一言が輝く脚本が好き。うぬぼれやで、自分的好感度低めの男がまさかの頑張り。自分の人を見る目を変えてくれたかも。
●演技、演出(30%×4.5):1.35
・ビニーを演じた『セッション』のマイルズ・テラーの体づくり、演技、素晴らしい。
●映像、音、音楽(20%×3.5):0.70
・陰影が美しかったかな。