きえ

ビニー/信じる男のきえのレビュー・感想・評価

ビニー/信じる男(2015年製作の映画)
3.7
都内で唯一やってる劇場の最終日に滑り込みセーフで鑑賞。

交通事故で選手生命を絶たれたアメリカのプロボクサーで元世界チャンピオンのビニー・パジェンサの復活劇を描く。

ビニーの取った選択は”命の使い方”つまり”どう生きたいか”を考えるきっかけになり清々しい感動と共に見て良かったと思えた。

ストーリーは実話なので以上でも以下でもなくドキュメンタリーの様な映像で撮られている。特に試合描写🥊やコーナーでのやり取りはリアルな試合を見てるような臨場感に溢れていた。

ボクシング素人なので素人目線の私にはビニー役のマイルズ・テラーのリング上の”演技”は体作りも含めてボクサーそのものだった。でも詳しい人が見たら技術的には粗が見えるんだろうけど、その辺は撮影の仕方とか演技でカバー出来てたんじゃないかなと思う。

マイルズ・テラーと言えば『セッション』のドラマー役が今だ鮮明で、ストイックと言うイメージが出来上がってる。今回滑り込みでこの作品を見たのは、彼のストイックさが今回はどう映し出されているのか見たかったからだ。

物語の主役ビニー・パジェンサはあり得ない強靭な精神と信念を持った男だった。事故前のプロボクサーとしてのストイックさは勿論だけど、事故後の絶望的状況からの這い上がりはストイックを超えて何かに取り憑かれた狂気にも映る。世の中には素晴らしいも凄いも通り越した人間がいるものだ。

そのビニーを演じるに当たってマイルズ・テラーは8カ月間かけて85キロだった体重を76キロ、19パーセントあった体脂肪を6パーセントまで落としてボクサーの体格を作ったそうだ。しかも『ラ・ラ・ランド』のオファーを断って。でも断わって正解!タップを踏むマイルズよりボコってるマイルズの方が断然似合うもの。

今回のボクサー役はライト級とスーパーウェルター級の2階級に渡ってるから更に大変だったと思う。でもちゃんと階級毎の体型変化になってて素晴らしかった。

冒頭でも言った通り実話物の復活劇なので大きな脚色は出来ず事実物語を淡々と描写していく感じだった。その中でも出会いの大切さと言う意味で彼の再起を支えたトレーナーとの信頼と絆は大きい。そこをじっくりで1つの作品になりそうだけど、今回はそれだけではなく家族の愛情だったり(とにかく愛されてる幸せ者)、本人の強い信念だったりにもフォーカスしビニーの生き様が主役として描かれてる。とにかく復活に向けた過酷なトレーニングは生半可な精神力じゃない。

そんなビニーの生き様は様々な語録を生み出しそのどれもが深イイ!

例えば似て非なる次の言葉
『諦めるのが怖いんじゃない。
諦めるのが簡単なのが怖いんだ。』

例えば命へのリスクに対する次の言葉
『どんな命だ?ただ寝てるだけの命か?』

例えば再起を果たした後の次の言葉
『周囲が私についた最大の嘘は、物事はそんなにシンプルじゃないと言った事。これは諦めさせる為の言葉だ。本当は何事もシンプルなのに。やるかやらないかだけ。やると決めたら絶対にやる。』

信念。たった2つの漢字で簡単に書けるのにそれを持つ事は難しい。でもそれを遣って退けたビニーのストイックな生き様を通してマイルズ・テラーのストイックな狂演を楽しむ作品として私は充分楽しめた。マイルズ・テラーの為の作品と言うべきか…


最後に。今回知らない事を知った。
首を骨折した際の治療法として”ハロー”と言う宇宙飛行士的な装置で頭と脊椎を固定し頭蓋骨にボルト🔩で留める脊椎固定手術法と言うのがある。

寝たきりにならずに生活出来る反面、自然治癒に任せた治療法なのでリスクも高く細心の注意をして生活しなければいけない。そして半年後に今度はそれを取り外す手術をする。

ビニーは薬物を一切拒否し麻酔なしで頭蓋骨に入れたボルトを取るのだけど、これがもう見ていられないくらい強烈だった。そのシーン1つとってもビニーと言う男の尋常じゃない凄さが分かる。

プロを引退した今、穏やかに過ごしているだろうか?過酷な状況がなきゃ萌えない体質になっていなきゃいいけど…
きえ

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