マツシマ

カルテル・ランドのマツシマのレビュー・感想・評価

カルテル・ランド(2015年製作の映画)
3.8
メキシコで実際に存在するマフィア、カルテルとそれに対抗する自警団についてのドキュメンタリー

命懸けの撮影と、妙に美しいし映像の数々と、分かりやすい"キャラクター"などほぼいない現実の人間たちと、一体こんな状況どうすればいいんだ…と呆然としてしまうほど過酷で複雑なメキシコの現状に打ちのめされる

このドキュメンタリーは「いい者と悪い者」を分けて撮ってはいない
というか両者の線引きがいかに難しくて、時に無意味かというのがまざまざと分かる

メキシコにはセタスという巨大な麻薬カルテルがあり、その支配に苦しんだ人達の中から、自分たちの町から麻薬カルテルを追い出そうと銃を持った勢力が現れた
テンプル騎士団と名乗った彼らは過激な手段も用い、見事麻薬カルテルを追い出すことに成功

しかしその後、彼らテンプル騎士団自身が住民達から上納金を巻き上げ、逆らう者は惨たらしく殺害したりし始める

これに業を煮やした市民の中から、次はテンプル騎士団を追い出そうとする「自警団」が現れる

本作はそのメキシコの「自警団」のリーダー、そしてメキシコ国境付近で自発的に不法移民や麻薬密輸業者を取り締まるアメリカ側の「自警団」のリーダーを中心に取材が進んでいく

冒頭から強烈で、麻薬を精製(恐らくメタンフェタミン)する男達のシーンから始まる
夜の荒野で麻薬を精製する男達
ドラマか!

その後も家族を殺されたり自身も拷問を受けた人など、修羅場真っ只中の人々が次々出て来て、しかもそれがドンパチやってる戦場のど真ん中とかではなく、普通に町の中、日常の一部として存在していることにクラクラする

警察とか政府は何をしてるんだ…?(これは途中で何となく見えてきます)
そりゃ市民が銃を持って自警団も立ち上げるわ

メキシコの自警団
カルテルとことを構えるとなると、自分はおろか家族、果ては家が近所ってだけの人々すら殺されかねないのに、銃を手に戦うと決意するその勇気は凄いものがあります
もしくはそこまで追い込められているんだと

その勇気と火勢でテンプル騎士団を色んな街からガンガン追い出すことに成功
とってもヒーローっぽい

でも襲撃したテンプル騎士団の売人らしい男の家から色んなもの持ち去ってて「取られたものを取り返す権利がある」とか言うワケですよ
なるほど、この戦いには復讐の側面もあるよねと思わされる

戦況が有利になると、自警団内にも色んな奴が出てくる
強奪する奴、誘拐する奴
もちろんそれらはルール違反なのだけど、どの程度処罰されてるかは見えない

疑わしい奴を家族の目の前で連れ去り、自警団の基地で尋問する一幕も
スタンガンなどで痛めつけられてる、捕まったテンプル騎士団のメンバーと思しき男達の悲鳴がこだまする建物
頭を抱えて震えてる人達

本当に彼らはテンプル騎士団なのかも分からない
というか最早、自警団のやってることが正義なのかも分からない
完全にデジャヴ
行く末まる見えテレビ特捜部

命を省みず立ち上がった自警団のリーダーの医師
中盤までは家族想いでアツい男に映るが、めちゃくちゃガッッッツリ不倫に走ったりして、詳細は分からないものの家族を失ったり、最終的には自警団から追い出されたりしていて
正義も善人もあったもんじゃねえ!!!と思わされる

こういう「この人いい奴っぽいな」みたいな先入観をガタガタにされる展開が多々あって、人間って色んな面があるよなと痛感させられる
善人も悪をなすし、悪人が善をなすこともあるかも知れない

唯一、アメリカ側の自警団のリーダーのオッサンだけは(イーストウッドの映画に出てきそうな鬼のように渋いオッサン)国境を自分達で守るという正義を一貫してるんだけど
まぁ……撮られてないだけで、きっと何かはあるでしょうな…何かは

映画は最後、冒頭の麻薬精製野郎達に戻る
そこで彼らが語っている衝撃的な、ある意味で全てのカラクリを説明したような話がどの程度事実かは分からないが、きっとメキシコのある側面は確かに表しているのだろう

どうしようもない