O次郎

ナチス第三の男のO次郎のネタバレレビュー・内容・結末

ナチス第三の男(2017年製作の映画)
3.7

このレビューはネタバレを含みます

ハイドリヒごナチスの親衛隊の重鎮として台頭し、暗殺に斃れるまでを描く実話ベース作品。
一昨年前に国内公開された『ハイドリヒを撃て』という作品があったが、こちらは暗殺者二人の側よりもハイドリヒ側の視点がウエイトとして「かなり強め」。

というのも、冒頭から中盤までの半分をハイドリヒが海軍軍人を免職になってからナチス党員となって親衛隊副官に上り詰めて暗殺されるまで、後半部はその数ヶ月前に遡っての件の暗殺者二人のプラハ潜入からハイドリヒ暗殺と自滅まで、という具合で尺としては均等。
しかしながらジェイソン=クラークの堅実且つ圧倒的なカリスマを放つハイドリヒの圧を浴びた後では、根が純朴な青年の暗殺者二人に視点が移るとどうにも興が一旦冷めてしまうのが作劇としてちと痛い。
ハイドリヒ側が1929年に女性問題で海軍を不名誉除隊してから一足飛びで1939年頃に話が進んでたし、両サイドの物語をクロスカッティングで描けばもっとスリルが持続したのではないかと思う。
銃撃戦が当時の銃器の火力よりも幾分か盛っているかと感じるぐらい迫力で凄惨だったので余計に勿体無い。

作品のハイライトは、暗殺者の投げた手榴弾が致命傷となって、旧ボンドガールでお馴染みのロザムンド=パイクとヒムラーに見守られながら病院で臨終するシーン。
妻に息子を立派なアーリア人として育てるよう諭し、同士ヒムラーにユダヤ人絶滅計画書を託して静かに息を引き取る...。
やってることは狂信からの大量虐殺以外の何物でもないのに、志半ばで愛する者に看取られながら息を引き取るごく自然な封建家庭の一幕に見えるのが本当にゾッとする。ゾッとするという言葉で足りないぐらいゾッとする。
報復としてナチス親衛隊の暗殺者の青年二人の苛烈な討伐が始まり、お互いの検討を称え合いながら共に自害するが、「死に際の尊厳」という括りで言えばハイドリヒのそれも大差が無く見えるのがなんとも悍ましい限り。

細かい点では序盤、海軍軍人時代からのハイドリヒの異能ぶりが端的にでも描かれればより怪物感がストンと観客に受け入れられたのではと思う。
後の義理の父に己の有能さを示すために鶏小屋の運営の不備を即座に指摘する件は上手かったが、短期間でそれを是正する手腕を画で見せて欲しかったところ。

ともあれ、要人の暗殺はたとえ完遂出来たとしてもその報復として無関係の無辜の人々が血祭りに上げられ、最悪は体制側に支配の正当性を与えてしまう皮肉な結果ももたらすのは誰にでも予想し得る。
それを差し置いても暗殺という行為に訴えざるを得ない状況と思考というのが如何に狂気的であるかを考えさせられる。
それとこれを言ったらお終いかもしれんが、登場人物みんな英語じゃなくてドイツ語喋ろうよ...。
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