ちろる

さざなみのちろるのレビュー・感想・評価

さざなみ(2015年製作の映画)
3.6
45年寄り添った夫婦にさざなみが押し寄せる。静かにでも着実にザワザワ、ザワザワと音が聞こえてくるようだ。
原題より邦題が優れてると思ったのってほんと何年ぶりだろう。

女は過去の恋愛をすっかり忘れ去ることができるけど、男はどうしても過去をの女を心の中でストックしていくとよく言われる。
愛を確かめ合って結婚した夫でも、太刀打ちできない過去の女の第3位は夫の初恋の女、第2位はモノにできなかったあと一歩だった女。そして堂々第1位はこのジェフにとってのカチャのように、深く愛し合っていたのに亡くなってしまった女。
これはもうお手上げだ。なんせ若い時に失った女は老いないから、夫にとっては永遠にキラキラした状態のまま心に住み着いて離れない。

ジェフは半ば無神経に、いや無邪気にスイスの氷山へ居なくなったカチャの遺体が発見された事を話す。
それからはそのことがこれからジェフを失うきっかけになるのではと気が気では無いケイト。
開始五分くらい以降からは、ケイトの表情は不幸そのもので、笑顔をつくっていても、ジェフに愛を囁かれても暗さを纏っていた。

この映画は男と女で感想は異なってくると思う。
もう、存在もしない家庭を壊すはずもない死んだ女に深く嫉妬して、なかば探偵並みに夫の秘密を漁ろうとしたり、スイスに行かせないように働きかけるケイトの姿は女の持つダメな部分を出していて、きっと男の人には共感を得難い行動だろう。

でも女はきっとこのケイトの「心のさざなみ」が少しは理解できるはずだ。
いっそ「スイスに遺体を確認しに行けば?」なんて平気な顔して言えれば楽になれるけど、もしそれを許したらきっともう今後は彼の心がカチャで完全に支配されてしまうかもしれない。だったらたとえそれが破滅に向かう第一歩であってもケイトの行動はやるべき事なのかもしれない。

温暖化よ、あとは幸せに手を取り合って死に向かうだけのはずの老夫婦になんて罪深きいたずらをしてしまったのか、、、

ラストまで、ずっとケイトの不幸を纏ったような顔はこの物語の先にはもうケイトの望む幸せのかたちは戻ってこない事を示唆しているようにも見える。

たった一つの夫婦の小さな心のズレだけに注目して、ここまでザワザワさせてくれたのは、ケイト役のシャーロット ランプリング演じる影を落とし続ける表情の中で、未だに好きな人に恋い焦がれる20歳の乙女のような素晴らしい演技によるものだったと思う。
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