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さざなみの海のレビュー・感想・評価

さざなみ(2015年製作の映画)
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肝心なとき、ひとがひとに求めるのは一途な正直でも上手な嘘でもなくその先にある誠実さなのかもしれない。今年の春、名前すら知らなかった人に自分の文章を盗作されたとき、わたしが欲しかったのは、ごめんなさいという薄っぺらい正直でもあなたに憧れていますという綺麗にした嘘でもなく、「もうあなたをこんなことで苦しめません、傷つけません」という約束、に対する誠実さだったんだなと本作を観てようやく気がついた。ひとを信じることはすごく難しいのに、その信頼を裏切ることは頬をぶつよりずっと簡単で、そして残酷だ。わたしはこの手で、ひとの頬をぶつことくらいしようとすればすぐにでもできると思う。でもその同じ手で、平気な顔して、猫の頭を撫でることはできない、大切なひとの手を握ることはできないと思う。そういう話じゃないだろうか、彼女が彼に求めたのは「私を傷つける前のあなたの優しい手」だったんじゃないだろうか、彼自身がそれを取り戻そうとする、嘘と真実が混線しそれでもひたむきである誠実さだったんじゃないだろうか。厳しくて悲しいのにどこか途方もなく優しい映画でした。アンドリュー・ヘイの映画、とても好きかもしれない。
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