Ryoma

ある夏の記録のRyomaのレビュー・感想・評価

ある夏の記録(1961年製作の映画)
4.1
現代アートハウス入門というイベントで鑑賞。
私たちが共同的に幻想する「真実」という概念は、重層的・多面体的な構造を持ってゆらゆらと浮かんでいる。いま光が「真実」を照らしつける。まるで多面体のような「真実」は、あたかもミラーボールの如く、キラキラと輝く。そして当然、斜め三十度で照らされた真実と、斜め百二十度で照らされた真実とでは、同じ真実でも、輝き方が異なってくる……。
この映画の目的は「真実」を撮ろうとすることだ。それもただ一つの真実を。しかし、実際にフィルムに焼き付けられたパリの人々の姿は、映画という箱庭でのみ存在しうる真実だった。出演者は「これは真実ではない」という始末だ。果たしてそうなのであろうか?いいやそうではない。この映画の持つ真実と彼ら自身の持つ真実は全く同じものであり、ただ「輝き方」が異なるだけなのだ。
映画である以上、「映画的な方向」から光が当てられることは避けられない。そして「映画的な方向」から照らされた真実は、夢幻の色彩を帯びつつ煌々と輝く。しかしそれは彼ら=出演者の独占する輝きではない。そう、その輝きは、「彼ら」の輝きであると同時に、同じ「真実」を共有する、「映画」そのものの輝きなのだ。
Ryoma

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