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ハドソン川の奇跡のbutasuのレビュー・感想・評価

ハドソン川の奇跡(2016年製作の映画)
4.5
深く感動した。観終わった今でも胸がいっぱいで苦しいくらい。実際にあった航空機事故の映画化、監督クリント・イーストウッド、主演トム・ハンクスというだけでハズレはないだろうと思ってはいたが、想像を遥かに上回る大傑作だった。

この"奇跡"と呼ばれる実話を他の監督に撮らせていたら、事故の様子を強調したパニック映画か、乗客ごとのエピソードを強調したもっとウェットで大げさな"全米が涙する美談"になっていただろう。しかしクリント・イーストウッドは非常に抑えた重厚な演出でこの話を描いてみせた。"奇跡"自体をメインにするのではなく、その後の機長の苦悩を中心に話を進めることで、より事の重大さや彼の素晴らしさが際立つ作りになっている。有名になって騒がれるほど孤独感を強めていく機長を、トム・ハンクスが抑えた素晴らしい芝居で表現する。誰もが結末を知っているあの事故自体に映画としてのサスペンス性を持たせるのではなく、「あの判断は本当に正しかったのか」という点を主眼に置き、ラストまで緊張感を持続させた構成も見事。回想と現在を行き来する見せ方も巧みで、必要な情報だけに絞り無駄を削ぎ落として90分程度にまとめ上げたのも素晴らしい。監督はこの撮影のために実際にエアバスを購入し、映画内にも当時の関係者を本人役で多数出演させているというのだから、そのリアリティの追求姿勢には脱帽するしかない。機長だけでなく、副機長やCAや管制塔の人々など、"プロ"の仕事を丁寧にしっかり描いてみせたのもとても好感が持てる。

シンプルに心を打たれてしまったので、逆にあまり書くことがない。実際の大事故をただなぞって見せるのではなく、一人の男の苦悩と挟持を深く描いてみせた映画作品。ゆえに原題は「Sully」、機長の名前なのである。本当に素晴らしかった。
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