YukiSano

ハドソン川の奇跡のYukiSanoのレビュー・感想・評価

ハドソン川の奇跡(2016年製作の映画)
4.2
批評家の評判が良すぎて敬遠してた作品。イーストウッドにしては、ド直球な英雄談に戸惑いを覚えたが、観てみると納得の一品。

恐怖と奇跡の208秒間に何が起こったのかを検証するために、何度も「その時」を繰り返す構成が飽きさせず、スリルを持続する演出に感服した。

アメリカンスナイパー辺りから、イーストウッドはとても実験的な作りにしていて、一見すると駄作にも見えかねないほどに極限に無駄を削ぎ落とした構成でシンプルに人物を掘り下げている。

また実話ものだと、ひたすらリアリズムに徹した演出が逆に現実と空想の境目を曖昧にするため、こちらが真実について想いを巡らせなければならなくなる。

実はイーストウッドは、事実の核となるテーマを炙り出すための虚構部分を敢えて陳腐に入れているように思えてくる。

この観客自身が自分で想像して何が自分にとって本当なのかを考えてもらうために、徹底的にリアリズムを追及しながらも、あえて余白や隙を作り、その余地を作り出していると考えた。

買いかぶり過ぎかもしれないが、彼はもはや傑作を作ることに飽きて、彼らしくない間口の広い題材で一見陳腐にも見えるようにして、ひたすら観客の知性と品性を試すことに集中してる気がする。

アメリカンスナイパーとハドソン川の二作は911から見え始めた対となるアメリカの光と闇を描いている。そこから浮かび上がるアメリカの偶像を観客に表面的にはヒーローとして描いて喜ばせているが、実際には「違う」ということを示している。一人の人間の偶像化を通して、反射したアメリカの姿を、どう捉えるかで見えかたが変わる万華鏡のような作品。

それをアメリカの良心の象徴たるトム・ハンクスが演じるという皮肉と、だからこそ伝えたい「一人の力」では成し得ない『奇跡』こそが前向きに伝えたいことなのだと受け取った。
YukiSano

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