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ハドソン川の奇跡のohassyのレビュー・感想・評価

ハドソン川の奇跡(2016年製作の映画)
4.0
「どこまでも静かなサリーの佇まいにただ憧れる」


映画監督としてのイーストウッドはすごく好きなのだけれど、なんとなく遠ざかっていた時期がある。
多分「ミリオンダラーベイビー」の後くらいからだった。

で、完全に復活したのが本作。
その間にも好きな映画はあるし観てもいるけれど、気持ちが離れていたとでも言うか、一時期別れてしまっていた彼女のような。

何を言っているか分からない。

実話を基にした作品の強みは、誰がなんと言おうとそれが真実であることで、いくらありえないとか感情移入できないとかリアリティに欠けるとか思われても、責められないところにある。
しかしながらその事実を真実味をもって伝えられるかどうかが映画化をする醍醐味であり、監督の手腕であり、演者の力量だ。

トムハンクスはいつもすごいけれど、ひょっとしたらサリー役が1番すごいかもしれない。
真摯で正直でどこまでも静かな湖面のような人間性があっという間に伝わってきて、気がついたら彼を慕っていた。
とはいえ、キャラクターを伝えるためのワザとらしくて説明的なシーンも見受けられず、淡々と描写される中で自然と醸成されていくのだから、これ以上のことはない。

もちろんそれはイーストウッドの手腕でもあるわけで、どんな形にでも演出できる飛行機事故の物語をここまで静かに、サリーという人物にフォーカスし続けることで生み出すカタルシスに舌を巻く思いだ。

実話の映画化はやはり人物の作り方に重きが置かれる、その最たるもののひとつが「パリ発〜」なのだな。
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