るるびっち

アノマリサのるるびっちのレビュー・感想・評価

アノマリサ(2015年製作の映画)
4.0
味覚障害で何を食べても味がしないという状況に似ている。
他人の顔や声が、全て同じに感じる主人公。
女性も子供も野太いオッサンの声に聞こえるのでは、恋愛も家族サービスも出来るものではない。
チャーリー・カウフマン独特の世界を人形アニメで表現。
実写でも全然良い気がするが、人形アニメにすることで人間の営みの愚かさを客観的に表現できるということなのだろう。

飛行機恐怖症の男が手を握って離さないとか、ホテルの窓から下を見ると Gガンダム…いやG行為にふける男がいるとか、チャーリー・カウフマン世界が展開する。そもそも人形アニメで、ボテ腹の中年男の霜降りせいや(ポロリ)を、見なきゃいけない時点でふざけている。

顔が目と口でセパレートされていて、口は笑っていても目は悲しみをたたえている。
彼は講演家で、サービス向上の為に顧客心理を理解する事を説く。しかし、それは全て本心の裏返しだった。
本当は自分だけが特別な存在で、他人を見下している自己中マンだ。
相手の気持ちなど理解していない。本心を隠して生きている。
そのため自己矛盾が体の変調に現れていて、口が勝手に動く。顔から外れた口は、カチカチと痙攣のように動いている。

恐らくアンジャッシュ渡部には、遊び相手が同じ顔に見えるのだろう。同じ顔に見えるから、多目的トイレで用が果たせるのだ。
経験を活かして、「多目的トイレ」ネタで得意の勘違いコントを作って欲しい。

そんな自己中な主人公が、女性らしい声を聞いた。
それがリサで、全ての女性が同じ顔のオッサン声に聞こえる彼には、自分を分ってくれる究極の存在だ。
アノマリサとは、特別なリサということだ。
女性らしい声で歌うリサの歌声は、彼には天使の声に聞こえただろう。
しかしその特別はほんの瞬間であった。神経質な彼は彼女の挙動がいちいち気に食わない。
結局は彼自身の問題だから。
味がしなければどんな高級肉もゴムのようで、高級米も砂のようであろう。他人とのコミュニケーションや恋愛が、正に砂を噛む状態になる。
それは家族に対してもそうなのだ。
お客の気持ちになって便宜を図るとビジネス書に記載しながら、彼は他人の心が解らない。
最終的に、ダッチワイフのテープ音だけが異国の女性の声というのは、人形アニメである本作最大の皮肉であろう。

今の所、グルメ渡部には妻は特別な「アノマノゾミ」であるらしい。
トイレで済ませるような存在にならないことを、願うばかりである。
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