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光りの墓のKKMXのレビュー・感想・評価

光りの墓(2015年製作の映画)
3.3
アピチャッポン作品ながら、あまり自分には合わない作品でした。
とにかく本作は政治色が強い。アピチャッポンは明らかに軍に対して嫌悪と怒りの感情を持ってますね。作風はのんびりしてますが、ケン・ローチ的なスピリットを感じました。

で、ケン・ローチの怒りは我々が生きる新自由主義の世界に対するものなのですぐに共鳴でき、しかも超わかりやすく描くので彼のパワーに鼓舞されます。アピチャッポンの怒りの対象はおそらくタイ政府(軍事政権?)なんでしょうね。ドメスティック感が強く、政情をある程度理解しないとついていけねぇなぁと感じました。しかも死ぬほどわかりづらい。

眠り病で眠っているのは軍人だけですし、その背景になる古代の王国の争いも、軍によるもの。病院の近くを掘り起こすユンボも暴力を象徴しているようにも感じます。
夢と現実を行き来しながらも、夢の持つ力よりも目覚める-目覚めないの対立軸が印象に残りました。

アピチャッポンはもともと政治色で批評的な作家だと感じていましたが、それよりもスケールの大きな視点が優位に立つので、ゆったりとしたマジックリアルな作風と相性が良かったと思います。
しかし、本作ではそのバランスが崩れたように感じました。あらゆることを並列に扱うようなスケール感が逆に焦点をぼやけさせてしまったように感じます。

あと、排便とか勃起とか生活において隠されているものを扱う場合、単に並列にするだけでは単に混乱を招くのでは、と感じてます。
例えばホドロフスキー師匠が経血を扱う時は「隠されているからこそ、オープンにしなければならない!それがサイコマジック!」みたいに強い意志が感じられます。だから師匠の経血表現には意味を感じます。
だけどアピチャッポンの排便はあまり意味を感じないです。表現がわかりづらすぎる。


相変わらずぼんやり観るには良い作品だと思います。ラオス王女の美人姉妹は最高に素敵だったし、謎のライトは色が変わって面白いし、全体的に悪くはないとは思いました。が、自分にはイマイチでした。
アピチャッポン作品なんてみんなアブストラクトでおんなじようにマッタリ観れるものだと思ってましたが、当たり前ですが1作1作ぜんぜん違いますね。


*マリさんの『マリリン映画祭』に影響を受けて、この1年の新作を振り返ってみました。
それはコメント欄にて。
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