ぴのした

光りの墓のぴのしたのレビュー・感想・評価

光りの墓(2015年製作の映画)
3.8
妻にアピチャッポン映画の良さを聞くと、「ありえない話が当たり前のように受け入れられているところ」という。

この映画の人たちは、女神と名乗る若い女の話を信じたり、死者と更新できる女の話を信じたりする。

宗教から離れても、変な光る機械を病院に導入したり、怪しげなクリームをありがたかったりもする。

たしかに、何でも疑わずとりあえず信じてみる懐の広さというか、おおらかさがあるような気がする。

それがアピチャッポン映画特有のものなのか、それともタイ自体がわりとそういうものなのか分からないけど、不思議と心地よい。

眠り続ける兵士は、夢の中で死んだ王たちのために戦っているという。

兵士たちの上で色を変えながら絶えず光るライトと、真夜中の地下鉄やバス停で光に照らされながら過ごす人の姿が重なる。回る換気扇、池の水面を弾く水車。

夢の中で戦う兵士は、夜も休むことなく動き続けるタイの人たちの姿の風刺のようにも見える。

足が不自由な主人公だけが逆に不眠症というのも面白い。

アピチャッポン映画は写真的なカットが多い。なんでもない風景をロングショットで切り取ったような。

木が生茂る中に仏像が取り残されたような街中の景色、人々が思い思いに過ごす水辺。

タイの亜熱帯感と、宗教が暮らしに根付いている感じと、ボロボロのコンクリートの発展途上国感と、それをあんまり気にしてなさそうな国民性まで滲むような気がして、好き。

ラストシーン、ショベルカーでデコボコにされた土の山の上で、少年たちがサッカーボールを蹴る。主人公はそれを瞬き一つせず見つめる。

慌ただしく変わっていく世の中で、大切なもの(少年たちに息づくタイの素朴さや大らかさみたいなもの?)を見逃さまいとしているかのように感じた。