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戦国自衛隊のdm10foreverのレビュー・感想・評価

戦国自衛隊(1979年製作の映画)
3.0
【抑えきれない衝動】

まず大前提として、よく「自衛隊」という名称でこんなストーリーになることを了承したなと。
自衛隊員であるはずなのに、ほぼ自己の衝動のままに突き進んでしまう様は、さすがに自衛隊の理念に反するものだし、撮影に当たっては、かろうじてキャストの数名を体験入隊させることしか認めなかったというエピソードからも、あまり自衛隊としては「All OK!」と言えるものではなかったのだろう。
実は見ている最中もずっとその設定が引っ掛かっていて、イマイチ感情移入が出来なかったのも確か。

―――ある作戦中に突然謎の閃光に包まれた陸上自衛隊の一個小隊が戦国時代にタイムスリップしてしまうところから物語は始まるのだが、設定自体は別にこれでいいと思う。
原因がはっきりわかっているなら逆に対処方法も見えてくるので、あえて原因がわからないままの方が、そのパニック具合や隊員たちの苦悩、絶望などが浮かび上がってくる。
なので、導入部分は期待が高まる。
しかし唐突に武士たちの襲撃を受けてひとしきりパニックになったあと、敵将の長尾平三景虎(夏八木勲)がこちらを「同属じゃ!」と認めたところから、展開は急カーブを描き出す。
自衛隊の指揮官は伊庭三等陸尉(千葉真一=サニー千葉、以下伊庭三尉)。それぞれの軍勢のリーダーが相まみえると、なんら激突も心の交流もないまま、何かしらのシンパシー的なものを感じたのか、途端に意気投合してしまう。
本来、慎重行動がモットーのはずのリーダーが、真っ先にタイムスリップを受け入れてしまっては、残りの隊員たちはさぞ不安に・・・ならない。
各々「昭和に帰れるのかな?」「彼女が待ってるんだ」等、セリフでちょいちょい補っていながらも、表情や立ち居振る舞いからは悲壮感はそれほど感じられない。

むしろ、今まで生きていた「昭和(現代)」は生きずらいのだと言わんばかりに、自己の衝動、欲望を解放させはじめる。

中でも矢野(渡瀬恒彦)は過去に伊庭との間に遺恨を残しており、このしがらみのない時代を利用して、本能の赴くままに農民たちを殺し若い女を片っ端から犯していく。
何とか矢野の暴走を止めようと苦心していた伊庭も遂に決心し、矢野ら暴走チームを一掃する・・・。
ここを見て『あぁ、伊庭三尉にはまだ自衛隊としての使命感はちゃんとあるのね』となりそうなものなのに・・・違った。

彼は矢野の生き様、死に様にまでシンパシーを感じてしまうのだ。
そして残された隊員たちに宣言する。

「俺はこの時代で天下を獲る」

フォ~~!(マイケル風)
あ、そっちに行くの?自衛隊員としては勿論、普通の人間として「過去を変える」という事が未来に影響を及ぼす可能性が高いんだよ!もしかしたら、あんたたちが殺す武士の子孫が自分や自分の知り合いの可能性だってあるんだよ!ってことは気持ちいいくらいにスルー。
確かに論理的に状況を判断しようとする参謀的な県(江藤潤)みたいな隊員もいたけど、彼の意見は、どちらかというと映画の設定説明のような「観客向けの補足説明」的なものでしかななく、伊庭の判断に影響を及ぼすようなものでもなく・・・。
とにかくそう決めてからの解放感って凄いのよ。職業として自衛隊をやってるだけっていう隊員も勿論いるのだろうし否定もしない。
でも、「自衛隊」と描くのなら「守る(衛)」という信念、理念が前提にある人々だという頭でいるだけに、自分の感情を優先して動くリーダーと「いっちょ、やってやりますか!」と簡単に付いていく隊員たちに、感情移入も同調も生まれなかった。

確かに当時としてはかなりの迫力ある映像だと思う。CGという技術がないことが逆にリアルを追求することに繋がり、爆発シーンなどはなかなか見応えはあった。
だけど・・・やっぱり、あまりにも戦国時代を満喫しちゃった自衛隊ってのが…て感じ。

斎藤光正監督は、それまでも「俺たちの旅」「ゆうひが丘の総理大臣」などの青春群像ドラマシリーズを撮り続けていたこともあって「自分がこの作品を作るなら青春物にしなければ意味がない」と言ったそう。

う~ん。昭和の青春ってこんなんだったっけ?
「体制に縛られるのではなく、自分の力で未来を切り開く」っていう力強い未来志向系をこの作品に落とし込みたかったのかもしれない。
それはそれでわからないでもない。一人ひとりが「自分」というものを意識しながら生きようとはしていたし、それは「最終的には自己を犠牲にしてでも国を守る」という自衛隊の理念とは対極にある考え方でもある。だからある意味では理に適っている。

でも、だとしたらその対象を「自衛隊」にすべきだったのだろうか?
彼らにとって自衛隊は「青春を束縛する体制」だったのだろうか?

この映画が公開された時代は、残念ながら劇場でリアルタイムで観るような年ではなかったし、当時の評価も良く知らない。ただ、現時点でみてもそうそうたるキャスティングであることからも相当力が入った作品であったことは想像がつく。

時代が違うからなのかな・・・・。

セリフの臭さなんかは「時代補正」でクリアできたんだけど、根本的な世界観がどうにも・・・という作品でした。
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