COZY922

ミュージアムのCOZY922のレビュー・感想・評価

ミュージアム(2016年製作の映画)
4.0
「ドッグフードの刑」「母の痛みを知りましょうの刑」「均等の愛の刑」「いつまでも美しくの刑」「針千本飲ますの刑」。人を嘲笑うように被害者を皮肉った刑の名。ホラー的に視覚に訴えてくるあまりにも残忍な手口。怒涛のように繰り広げられる犯行は刑事の家族にも忍び寄り 次第に緊張感が高まる。一方、被害者の共通点から連続猟奇殺人犯の意図が見えたと思いきや、真実はそこでは無かった。。

とても疲れた。否定的な意味じゃない。グロいシーンの目立つこの映画の 部分部分に 残酷さとは違う意味で心が震えた。賛否両論飛び交う本作。ディテールの詰めが甘い点は確かに多々ある。が、個人的に 邦画のサイコサスペンスには今まで あまりいい印象を持っていなかったこと、期待値が高くなかったことが逆に功を奏して、最後まで画面とストーリーに釘付けになってしまった。事前情報をまともに見ずにいきなり鑑賞したのも結果的には大正解。犯人俳優を知らなかった私はただただ唖然。それほどの怪演だったと言っていいと思う。

前半は「セブン」を思わせる事件の異常さで観客を強引に物語に引きずり込む。R指定されなかったのが不思議なほど残虐な場面があり、決して好きなジャンルとは言えない。けれど容赦の無い残酷さの裏にある犯人の生い立ちや、それを追う小栗旬演じる刑事の心の移ろいが、物語を単なるサイコキラーの猟奇殺人に終わらせず、一定の説得力を持たせている。

どんな人間も生まれた時は無垢だったはず。生まれながらのサイコキラーは存在しないはず。そう考えるのが正しいならば、これはとても哀しい物語だと思う。生きた人間のやることとは思えない残酷さと異常さの中に原因が垣間見えた時、決して許せない殺人鬼が憐れで可哀想に思えてくるのだ。彼はもっと違う人生を送ることができるはずだったのでは、と。

そしてサイコサスペンスらしい不安を煽るエンディング。そう、サイコサスペンスにソフトランディングやハッピーエンドは似合わない。ラストのあれが心因性のものだとすると、彼の行く末は、、。

子供の頃 仕事に没頭するあまり家庭を顧みない父親のことを嫌っていた刑事は父と同じような道を辿り、自分ではどうしようもない出来事で 心に深い傷を負う者も あとを絶たない。これは繰り返しの悪夢。悲劇が悲劇を生むことになるのか。背筋がぞっと寒くなった。
COZY922

COZY922