アメリカに実在した、「伝説の歌姫」と呼ばれた人物に着想を得て、1920年代のフランスに舞台を移して描く。
音痴な歌姫を描いたコメディーかと思っていたが、解釈が分かれる、不思議な悲喜劇であった。例えば、主人公は本当に自分が音痴だと気づいていなかったのか。彼女が歌うことを支えた執事は、何を望んでいたのか。異なる解釈が可能だと思う。
音痴な主人公は、なぜ歌うのか。その理由は、彼女自身の言葉と、夫の浮気相手の言葉から推察できる。それがとても切ない理由なのだ。そんな情熱的でありながら、切ない思いを抱えた女性を、カトリーヌ・フロが魅力たっぷりに演じていた。
主人公が朗々と音痴な歌声を披露する場面が、とても愉しい。可笑しいのに、おおっぴらに笑ってはいけないような、気まずい感じが余計に可笑しい。実のカトリーヌ・フロは歌がとても上手で、下手に歌うことにとても苦労したため、プロのオペラ歌手がわざと音程をはずして歌ったものが使われているのだという。カトリーヌ・フロの表情とぴったりマッチしていた。
ラストもどう受け止めたらよいのか戸惑うが、そういうわかりにくさも含めて、面白い作品だと思う。
実在した人物の伝記映画が、メリル・ストリープの主演で製作されるそうで、そちらも楽しみだ。