櫻イミト

真説フランケンシュタインの櫻イミトのレビュー・感想・評価

真説フランケンシュタイン(1973年製作の映画)
3.8
コッポラが製作した「フランケンシュタイン」 (1994)に先駆け原作の本質に近づけて描いた映像化作品。日本では2015年に3時間全長版DVDが発売された。

若き医師ヴィクター・フランケンシュタイン(レナード・ホワイティング)は不慮の事故で弟を亡くして以降、生命蘇生の研究を続けていた。そんな中、留学先で知り合った外科医ヘンリーの家で、人造人間を作る装置と切断された片腕が動き出す光景を目の当たりにする。二人は死体を墓場から掘り起こし太陽エネルギーを利用した実験を続け、遂に人造人間アダム(マイケル・サラザン)の誕生に手が届くのだが。。。

なかなか面白かった。本作の最大の特徴は完成した人造人間が美青年で多少の知性があること。ヴィクターは彼を気に入って可愛がり、アダムはヴィクターの真似をしながら知識を得ていく。しかし実験は完璧ではなくアダムの顔に綻びが出始めると、ヴィクターは冷たく扱うようになる。そんなヴィクターからアダムは怒りや憎しみの感情を学んでしまうのだ。

派手な演出は抑えられているが不穏な人間ドラマが巧みに展開するのは原作イメージに近い。映像は他の映画化作品のどれとも似ておらず、落ち着いたタッチの中に猟奇性が紛れ込んでいるようなイメージ。人造人間の実験室は大掛かりでゴシック風味と言うよりスチームパンク系。マリア誕生の過程には70年代前半らしいサイケな色使いがされていた。

映画オリジナルの設定は、ポリドリという野心的な先輩医師が人造人間の秘密を搾取し女の人造人間マリアを作り出すこと。ポリドリと言う名は原作者メアリー・シェリーの知人で『吸血鬼』(1819)の作者。マリアはおそらく「メトロポリス」(1926)に登場するアンドロイド・マリアからの引用だろう。

物語は紆余曲折するが軸となるのはヴィクターを慕い続けるアダムと、ヴィクターの罪悪感。ルッキズムや他者との関りなど文学的な要素が散りばめられて見応えがあった。脚本のクリストファー・イシャーウッドは早くから同性愛をカミングアウトした作家で「キャバレー」(1972)の原作者としても知られている。彼の抱えていた生き辛さが本作の物語に反映されているのだと思う。

個人的に今秋の新作映画で最も楽しみにしているのが、ギレルモ・デル・トロ監督の「フランケンシュタイン」。果たしてどのような仕上がりになったのだろうか。
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