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ダンガル きっと、つよくなるのtakのレビュー・感想・評価

4.5
インド映画にしてはそれ程長尺でもないこの140分には、僕らが映画から学ぶ様々なものが詰め込まれている。親子愛、人情、頑張り続けることの尊さ、現実の厳しさ、老い、夢を叶えること。しかしそれらはバラバラにはならず、見事に絡み合って心を揺さぶるエンターテイメントとなる。「きっと、うまくいく」のアーミル・カーンがプロデュースも手がけた本作は、インドの女子レスリング選手の真実の物語。彼の主演作を観るのはこれが3本目だが、すべて体格が違う、演じる年齢も違う、しかしどの役も信念を貫く姿が僕らを感動させてくれる。すごい役者だ。本作では映画の前半後半で全く違う体型。DVDにも収録された過激な肉体改造で、若い頃と50代を演じきる。もう演技が凄いとかじゃない。演じる魂が違う。ちょっと前まで大学生や宇宙人を演じてたアーミル・カーンが、実年齢相応の役柄を演ずる。その深みに涙する。

レスリング選手としての将来を諦めて、道場で後進の指導をしていたマハヴィル。彼は自分の息子が生まれたら、金メダリストにすることが夢だった。ところが生まれたのは女の子で、結局四女の父となる。ある日、長女と次女が男の子と喧嘩してボコボコにして帰ってきた。マハヴィルは二人に格闘のセンスを感じ、娘にレスリングを鍛え始める。浴びせられるのは周囲の嘲笑。抵抗を示す娘たちだったが、結婚する友人に「お父さんはあなたたちのことを考えている。すぐに結婚して家事と育児しか知らない女性にしたくないのよ。」と諭される。本気になった彼女達は地元のレスリング大会で男相手に連戦連勝。やがて長女はインド代表の選手に抜擢される。しかし、父の指導しか知らなかった彼女は次第に父に反発を強めていくことになる…。

クライマックスの国際大会で映画の緊張感はMAXに。コーチが悪役なのはちょっと気の毒な気もするのだけど、選手の特性を活かせなかったのは采配ミスでしょね。そのコーチの差し金で試合会場に入れないマハヴィル。試合結果を知る場面の演出が実にうまい。「炎のランナー」でイアン・ホルムが、育てた選手の勝利をひとり噛みしめる場面も涙を誘ったが、こっちはさらにドラマティック。55キロにはわが国の類人猿最強女子がおるやん!?と思った方もあるでしょうが、コモンウェルズ大会はイギリス連邦の国際大会なんですね。
「この勝利はインドの少女たちの希望となる。」
女性軽視な社会への問題提起も素晴らしい。
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