茶一郎

ミュートの茶一郎のレビュー・感想・評価

ミュート(2018年製作の映画)
2.9
 筋肉史上主義版『ロード・オブ・ザ・リング』だった前作『ウォー・クラフト』で批評的大惨敗をした「デヴィッド・ボウイの息子さん」ことダンカン・ジョーンズ監督の最新作。本作『ミュート』は監督の原点に戻る、長編デビュー作『月に囚われた男』と作品内の世界観を同じにしたSFになります。

 元はと言えば「デヴィッド・ボウイの七光り」などという紹介文がはばかられるほどSF映画作家として優秀だったダンカン・ジョーンズ監督だけに、非常に期待度の高かった本作ですが、結論から申し上げるとただただ退屈な2時間でした。劇場で観ていたら間違いなく寝落ちしていた作品。しかしご安心を!Netflix配信限定作品なので、寝そうになったら一時停止して立ち上がるなどして寝落ち防止に努められるのです!配信最高!

 さて本作『ミュート』、舞台は近未来のベルリン、サイバーパンクな世界観で、声を失った主人公が恋人の行方を探すという物語です。予告編の数カットを観ただけで、誰もが『ブレードランナー』を想起させる分かりやすい監督のSF愛は好ましいですが、本作はその愛から生まれたであろう「設定」と「画」が連なっただけで物語が無い、ほとんど設定画集と言っても良い代物になっています。
 そもそもベルリンが舞台である意味も、主人公が声帯を失っているという設定も物語的に意味は無く、全ては、今は亡き(声を発せられない)監督の父デヴィッド・ボウイに捧げられたものだというのだから困ったものです。
 未来の世界で「自分」探しの旅をしていた『ブレードランナー2049』はまだキャラクターへの興味がストーリーを推進させていましたが、本作では主人公が未来の世界で「自分の彼女」探しをする始末ですから「設定画集」を推進させる力は皆無と言って良いです。

 本来はインディペンデントの低予算で収まるような監督にとってのパーソナルな作品を、Netflixがプラットフォームとなり全世界的に発表できるようになったというのは一つの時代を表しているようで、それはそれで面白いかもしれません。加えて、劇中に登場する『月に囚われた男』の小ネタは面白いです。
茶一郎

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