天下の超かぼちゃ王大将軍

ミュートの天下の超かぼちゃ王大将軍のレビュー・感想・評価

ミュート(2018年製作の映画)
3.5
「不格好な映画が創る未来」

子供の頃に声を失ったレオは、恋人と友に幸せな日々を過ごしている。
レオはバーテンダー。恋人も同じバーのフロアで働いている。
声は無くとも、恋人さえいれば満足だったレオだが、
ある日、その恋人が姿を消してしまう。
行方を追うため、彼女の足跡を追うのだが。

■「正直、洗練はされてないけど…」

ダンカン・ジョーンズ監督作品。

劇場映画ではなく、Netflixの配信という形をとっている、
今後、主流になっていくだろう形式。

始めに言っておくと、劇場映画とネット配信の映画ではクオリティに大きな差がある。

ダンカン・ジョーンズという著名な監督作であっても、
その差は歴然と感じると思う。

ハリウッド映画が出来る工程に詳しくないけれど、
多分、我々が思っている以上に多人数の目のブラッシュアップが繰り返され、
クオリティアップと言うよりは、無難への平準化がされて世に出てるんだと思う。

脚本も、リライト、リライトを繰り返し、脚本家を変えてやりまくって完成するし、
映画が公開されると名前が見える人の印象が強くなるけど、
一番強いファクトではあるとは思うけれど、その他無数の目を持って平準化されているんだろうと思う。

ハリウッド基準つーのかな。クオリティって言うのかな。

ただ、今のNetflixを含めた配信系のオリジナル映画は、多分そこまでの工程を踏んでない。
予算の都合って要素もあると思うけど、割と作り手がダイレクトにモノを作っている感じを受ける。

その分、洗練はされておらず、ある程度金のかかったインディーズの印象が強い。

本作も、ダンカン・ジョーンズではあっても、そう。

過度な期待はせずに観て欲しい。

誤解しないで欲しいのは、私はこういう映画の方が好き。

作り手の顔が見える作品というか、創りたいものを作ろうとしている感じの作品。
もしくは、その作り手の本質をぶつけたような作品。

誰しも最初から潤沢な資金があるわけであなく、リソースがあるわけでもないから、
そこから始まるわけで、そこを出発点として、洗練された何かが花咲くんだろうと思ってる。

そういう意味で、本作もダンカン・ジョーンズの顔が見える作品になっていると思う。

■「脚本は稚拙。ただ、キャラは生きてる。」

本作の脚本はダンカン・ジョーンズ自身が務めているけれど、
見ていて粗は多い。

声の設定は本当に活きたのか。

キャラクタの最終的な相関は都合が良すぎないか。

謎の展開の割には、話が小さすぎないか。

ま、言いたい事は色々あるけれど、
ただ、少なくとも倒錯した各キャラクタには人間味があったと思う。

イギリス系特有の目線かもしれんけど、
人間を疑って見てるみたいな感じ?けど、核はピュアな。

割と好きな監督イギリス系多いんやけど、
マインドとしてその辺りが合ってるんかな。

ダンカン・ジョーンズも同じく、やっぱその性質持ってるなぁって感じた映画やった。

純粋に愛に生きる人たち。

愛って言っても、くさい愛じゃなくて、
なんやろ、自己欲的な愛というか。
欲に傾倒する弱さというか、弱さからくる欲というか。

同じ悪行でも、そこを感じられるのと感じられないのとでは違う。
そこが感じられないと、ただの悪いやつ。
そこが感じられると、哀しい人生。

多分、本作はそこのピュアな部分ありきで作られた作品だと思ってる。

結果、色んな部分で足りない所は出てきてる。
金掛けた劇場映画の場合、そこを他の人が補填し、
独走するところを止めるんだろうと思う。

ただ、個人的には、こういう作品がなくちゃいけないと思ってる。

誰もが最初は小さな作品でチャンスをつかむ。

チャレンジして、試行錯誤して。

昔は、劇場映画でそのサイクルがあった。
そこでチャンス掴んだ人間が、大きな予算である程度思い通りの作品を作っていた。

けど今は、ライフスタイルの変化やマインドの変化で、
映画のヒットの性質が極端になってきている。

大きくなる一方の予算でチャレンジより、
ターゲットに合わせる事が重要になってきている感じがあり、
誰が何を作りたいか、というより、市場に合わせてモノを作る感じが強くなってきてると思う。

過程で、チャレンジできてた低予算の下層も切り捨てられているのか少なくなってる気がする。

ただ、えらいもんで生れてくる土壌。

それが、Netflix含めたネット配信の土壌やと思う。

ネット配信は、作品個々でなく、サービス全体に対する金がベースにだから、
作品個々は割と独創を追求できるのかもしれん。

勿論、単に金とリソースが無いってのもあると思う。

ただ、そこからの試行錯誤があるるから、こっちが想像しないような映画、
新たな衝撃が生まれてくるんじゃないかと期待してる。

むしろ、ダンカン・ジョーンズみたいな既に有名な監督は、
個性さえ消せば、名前だけ無個性の映画作っておけば安泰なんだと思う。

そういう監督が、こういう処に踏み込んでくるのは、
本物のクリエーターなんやろなって思う。

なので、この試みは応援したい。

ただ、点数は正直に。