140字プロレス鶴見辰吾ジラ

ミッション:インポッシブル/フォールアウトの140字プロレス鶴見辰吾ジラのレビュー・感想・評価

4.0
”無敵の人”

何がそこまで彼を駆り立てるのか!?
トム・クルーズは56歳。
しかしながらシリーズ続編が出るために無茶苦茶なアクションを自分でこなす。危険なヘリのアクションシーンがあれば2000時間もの訓練を積んでスリリングなヘリアクションを自分でこなし、ビルからビルへと飛び移るアクションの際に足を骨折。されど予定より早く復帰してアクションをこなす戦闘狂と化してしまった。むしろ本作147分のアクション映画としては長尺な仕様に際して、抑制が崩壊したようなアクションのつるべ打ちに思わず、見ているこちらが限界をきたしてしまうかのようである。

アドレナリンジャンキーなのか?
嫁と離婚して失うモノがないのか?
徳を積みすぎて修羅になったのか?

何故、自身で大金を積んでまで危険なアクションに身を置くのだろうか?もはや「M:Iシリーズ」はトム・クルーズのプライベート映画状態である。冒頭の夢の中の結婚式のシーンのある一連のセリフ含め、逆にこれは愛する者や身近な者に対するトム・クルーズ自身の信念と依存と背徳の鬩ぎ合いに対する答えであり、抗いであり、そして存在証明を巡る闘い絵巻なのではないかと思ってしまった。

「ライトスタッフ」という映画がある。空軍パイロットが、最新のジェット機のテストパイロットとして責務に身を投じる映画なのであるが、当然の如くテストパイロットなので、事故死のリスクがかなりの確率でつきまとう。それでも信念を腹にすえた者は生きてまた大地に戻ってくるというある種の狂人賛歌な作品なのだが、トム・クルーズは自身の”ライトスタッフ”を惜しげもなく映画に投じるつもりなのだろうと、作品の構成や脚本を度外視にして、ドラッギースタイルな映画人としての生き方をそのまま作品の熱量や価値につなげられる稀有な存在なのだと思う。

監督のクリストファー・マッカリーは「ローグネイション」からの続投であるが、あまりに無茶なアクションありきの構成に暴れ馬を乗りこなすようにストーリーをくみ上げていく能力に感服してしまう。前作「ローグネイション」のクライマックスの決着のつけ方を踏まえた、シリアスながらドッキリコント色のある騙しの演出や、あるミッションのクリア条件を悪夢的に引き伸ばしてクリフハンギングすることで、147分の観客も巻き込んだマラソン型の映画としても昇華している。

言ってしまえば、あらゆる要素やアクションの全トッピング状態で放り投げられた映画なわけなので、無茶を承知で疾走させるため、個々のドラマ性は薄まるわけだが、トム・クルーズの大事な者たちへの責任と自身の信念の鬩ぎ合いを振り払うようなプライベート映画として見るならば、これほどまでに熱量を帯びた映画体験は早々味わえないし、むしろここまでアクションモンスターと化しているトム・クルーズの存在は、今反響を拡大させている「カメラを止めるな」と同じように「アクションを辞めるな」というクリエイター魂の燃え盛る炎なのであろう。


もし、トム・クルーズの自伝映画を作るのであれば、トム・クルーズ主演でで監督はダミアン・チャゼルを起用したらぶっ飛んだカルト映画になるんじゃないかとひそかに思ってみる。