しの

ミッション:インポッシブル/フォールアウトのしののレビュー・感想・評価

4.0
シリーズ6作目にしてようやくイーサン・ハントという男が何者なのか分かった気がする。誰も見捨てずに最後まで諦めず走り続ける男、それが彼なのだ。その姿は、観客を楽しませるために走り続けるトム・クルーズと重なる。役と役者の完全なる一体化にド感動。

今までのシリーズでは場当たり的にミッションが成功してる部分があって、それを前作『ローグ・ネイション』で自覚的に語り始めたわけだが、本作では自身の信念に狂気的なまでに真っ直ぐなイーサンの姿を見せて、そりゃ運も味方につくわと納得させてしまう。そういう意味でも前後編になっている。

ストーリーは明らかにその場その場で継ぎ足した感じがあって無茶かつ複雑なんだけど、それよりもまず「イーサンハントとは何者か」という確固たる主題があって、それに対してつるべ打ちのアクションでド真摯に答えてくるので完璧にやられてしまう。

イーサンの「誰も見捨てない」という信念が事件の発端となり、文字通り”Fallout(死の灰)”となって降り注いでしまう。これが今回のストーリーの大きな特徴だ。しかし彼はその後、自分が見捨てなかった人々とともにチームで「全員を」救っていく。話は複雑だが、大筋はシンプルで王道で愚直。でもそれがイーサン=トムなのだ。

ではどうやって救っていくのか。実は本作はイーサンの困り顔・焦り顔が多い。何度も窮地に立たされ、その度に「何とかする」「考える」と返す。結局どうするのかというと、困っても即行動! 焦っても即判断! とにかく走って敵に食らいつく。その根本にあるのは彼の信念だ。だからこそ彼は運も味方につけ、不可能を可能にする。

それを語るのがアクションということになるのだが、とにかくノースタントの説得力が物凄い。個人的には、ロンドンでひたすら走りまくるシーンが一番感動した。あれがイーサン・ハント、及びトム・クルーズという男をこれ以上なく端的に表している。まさに「奔走する」のだ。だから生身のアクションはそのままストーリーテリングとして機能するし、テーマへの回答になっている。単なる死にたがりのアクションではない。

正直純粋にエンタメとして面白いというより、シリーズや役者に関するメタ目線での感動が大きい。しかし、ストーリーの整合性やスパイ映画的なガジェットの楽しさを排してでも強烈なメッセージを伝えようとするその姿勢には感服した。ジュリアとの関係をはじめ、今までのM:Iシリーズの要素をすべて「イーサンハント」という一点に集中させているのだ。振り返ると、ガジェットやシチュエーションの楽しさ特化の『ゴースト・プロトコル』、クラシカルで物語的な楽しさ特化の『ローグ・ネイション』と来て、本作は強烈なシチュエーションで強烈な物語を紡いでいく作風なので良い所取りといえばそうかもしれない。内容的にも到達点と言っていい。アクションでストーリーを語るという意味では『マッドマックス』が引き合いに出されるのもわかる。とにかく走るトムクルーズの姿に元気をもらった。
しの

しの