ShinTakeuchi

ミッション:インポッシブル/フォールアウトのShinTakeuchiのネタバレレビュー・内容・結末

5.0

このレビューはネタバレを含みます

現代のヒーローは何のために戦うのか?
ミッション:インポッシブル/フォールアウト

文句なしの星5つ。
チケット代1800円と上映時間2時間に対して、これほど、お釣りの来る映画はそうそう、ない。

「スター・ウォーズ(シリーズ)」と対比したい。
デス・スターという巨大システムに、設計上の欠陥があって、この場所に爆弾を命中させると破壊できるとか、このスイッチを切ると止まるとか、そういう設定で、銀河を賭けたマクロな戦いを、主人公たちの人間サイズのミクロな戦いにすり替える。
「オリジナル・トリロジー」の頃は、それでも、「弱点見つけたり!」のカタルシスがあったが、何度も繰り返されると、設定の「作為」が見え隠れして興醒めしてきた(もしくは、これだけ似たような失敗を繰り返す帝国の技術者はアホではないかと思ってしまう)。

今作も、大きく言えば「スター・ウォーズ」と同じ構造を持つ。
今回の“ミッション”はロシアから盗まれたプルトニウムを、テロリストの手に渡る前に奪うこと。
ところが、物語の冒頭でイーサン・ハントは、仲間の命を優先したために、目の前でプルトニウムを奪われてしまう。
プルトニウムを使ったら核兵器による無差別テロという危機が迫る。これを防ぐため、イーサン・ハントのミッションは世界が賭かったものになっていく。

さて、「スター・ウォーズ」の主人公たちはフォースの使い手であり、神話的な(ある意味でヒーローであることを宿命付けられた)ヒーローだ。
一方、イーサンは、あくまで組織の一員であり、生身の人間だ。決してスーパーマンではない。
冒頭のエピソードから、非情になり切れない彼のもろさ=人間らしさが描かれるし、イーサンは生身の人間として、カラダを張った活躍で危機を乗り越えていく(ゆえに、トム・クルーズのカラダを張ったアクション満載となっている)。

一方、敵はどうか。
「スター・ウォーズ」の敵は(組織としては)絶対的な悪である。
かつてのヒーロー物はそれでよかった。
ウルトラマンが怪獣と、仮面ライダーがショッカーと、つまり正義の味方が悪と戦うことに、さほど理由はいらなかった。
しかし、現代の価値観は多様化し、正義は相対化した(今作でも、国家の在り方やグローバリズムの課題が背景として描かれている)。
では、現代のヒーローは何のために戦うのか?…と言うか、物語として、「現代のヒーローは何のために戦うことにすれば」、観客は納得できるのか。

本作は、この点の説得力が非常に高い。
イーサンは愛する人や仲間のために戦う。
そして敵は、そういうイーサンを逆手にとって攻めてきた。
ラストシーンの舞台のカシミールに、敵は周到な仕掛けによって、平穏に暮らしているはずのイーサンの前妻まで誘ったと知ってビックリ。
ああ、物語はここに収斂されていくのね!と判ったときの驚き。見事なストーリーテリングに唸る。

そして物語と並行して、サブタイトル「フォールアウト(核爆発後に降る放射性物質のこと)」から転用されるイメージが通奏低音のように描かれる(スカイダイビング、ビルからの落下、ヘリコプターのアクション、そして核爆発)。
タテ軸にはイーサンの戦いが、ヨコ軸にはフォールアウトが編み込まれ、物語の最後には、すべてのパズルのピースがはまる快感。
途中には格闘技、カーチェイス、銃撃戦、そして空中戦と、これでもかとアクションを楽しませる。
もう、お腹いっぱいである。

サプライズを何度も見せてくれる楽しい脚本は、もはや映画史のマスターピースとも言える「ユージュアル・サスペクツ」の、あの大どんでん返しを書いたクリストファー・マッカリー(監督も兼任)。
思わせぶりな謎かけでなく、伏線を伏線っぽくなく示し、回収の段で「あー、そういうことだったの!」と膝を叩きたくなる仕掛けは絶品。

過去作のキャラクターが同窓会のように登場するのも、楽しいです。
ShinTakeuchi

ShinTakeuchi