サマセット7

ミッション:インポッシブル/フォールアウトのサマセット7のレビュー・感想・評価

4.6
ミッションインポッシブルシリーズ第6弾。
監督は前作に続き、「誘拐犯」「アウトロー」のクリストファー・マッカリー。
主演はシリーズ通じて、トム・クルーズ。

前作でリーダーのレーンを捕縛され、壊滅に追い込まれた犯罪組織「シンジケート」。
しかし、「アポストル」と呼ばれるシンジケートの残党は活動を激化。
「ジョン・ラーク」と呼ばれる謎のテロリストに導かれ、盗み出された核爆弾の起爆剤となる3つのプルトニウムを使って、世界に混沌をもたらそうとする。
IMF工作員イーサン(トム)とそのチームは、アポストルより先にプルトニウムを確保しようとするが失敗し…。

毎回異なる監督を起用し、異なる作風の作品を生み出し続けてきた本シリーズ。
今作は、シリーズ中初めて、前作から同一監督が続投。
監督及び脚本は、トムの10年来の盟友クリストファー・マッカリー。
彼は、プロデューサーも兼ねる55歳となった現役屈指のスーパースター俳優の、狂気じみたスタントアクションへの拘りを最大限取り入れ、監督自らの作家性をも表現し、恐るべきアクション映画を作り上げた。

今作はシリーズにおける最大のヒット作である。
観客、批評家共に評価は高く、今作こそシリーズ最高傑作との呼び声も高い。

同じ監督と言えど、今作の作風は、前作ともまた一風異なる。
前作の前半アクション、後半騙し合いの流れや、恒例の極秘施設への潜入ミッションなど、前作までにおいて成功した部分を大胆に変更。
代わりに、シリーズ過去作と関連する要素を大量導入。
核爆弾の爆発という最終リミットや信用できない同行者を設定することで、全編通じて隙のない緊迫感を打ち出した。
そして、ラストに至るまで、トム本人による驚異的なスタントを連打し、経験にないスリルを持続させてみせた。
シリーズを、新たな地平に押し上げた一作と言える。

誰がどう見ても、今作の最大の見どころは、
トム・クルーズ本人による尋常でない、狂気のスタントアクションである。
とにかく、今作でトムは飛ぶ。
飛んで落ちる。それも、トム本人が。
上空8000メートルから高速でスカイダイビングした上、超低空でパラシュート展開する。
通称ヘイロージャンプ。
こんな映像見たことない!
55歳のトムが全力疾走、そしてビルの間をジャンプ!少し届かず、ビルにぶら下がる!実はこの時骨折してる!トム本人が!
パリの美しい街並みをバイクで疾走する。凱旋門を逆走する。トム本人が!!!

そして、狂気の極み。ヘリ・アクション。
ヘリから吊るされたロープにトムが捕まる。
そして、登る、登る、登る、着いた!
トム、すげー!行け!頑張れ!
か、ら、の。ええええええ!!!???
その後の映画の歴史に間違いなく残るヘリチェイスは、是非ご自身の目でお確かめいただきたい。
繰り返すが、こんな映像、見たことない。
なぜ彼はここまでするのか。
恐らくは、極まったサービス精神。
ありがとう、トム。ありがとう。

今作はアクションだけではない。
前作終盤を思わせるトリックも見ることができる。こちらもスカッとすること請け合いだ。
ストーリーはテンポ良くスピーディーに進み、語り口は滑らかだ。

今作には、シリーズ過去作品との関連要素が頻出する。
1の情報屋の子供達。
2や3の特定シーンを想起させるアクション。
冒頭からイーサンの夢の中に出てくる、3で結婚したイーサンの元妻。
5の重要人物たちや敵組織。
そして、シリーズお馴染みのチームメンバーたち。
シリーズファンとしては積み重ねを感じられ、嬉しくなる。
各キャラクターの深まりは心地よい。

新キャラクターも魅力的だ。
スーパーマンことヘンリー・カヴィル演じるCIAからの監視役ウォーカーは、その均整のとれた素晴らしい肉体と印象的な瞳、そして鬱陶しい口ヒゲにより、全編通じて圧倒的な存在感を発揮。
ヴァネッサ・カービー演じる闇の女商人ホワイトウィドウは、可憐に美しくも妖しい魔女めいた魅力を放つ。

今作のストーリーは、トムのアクションへの欲求を叶えるべくやや歪だが、確実にクリストファー・マッカリー風味が表れている。
その最大のものは、作中冒頭で書籍が出てくるギリシアの叙事詩「オデュッセイア」の引用だろう。
クリストファー・マッカリーは、70年代以前の映画や古典の引用にこだわりを持つ監督・脚本家として知られる。
前作ローグネイションでは、作中でオペラ・トゥーランドットを用いたほか、ヒロインの名前や中盤の舞台となる場所、女性に翻弄されるストーリーに名作「カサブランカ」を忍ばせた。
他にもヒッチコック・オマージュも沢山あったらしい。
オデュッセイアは、知略家で知られる英雄王オデュッセウスが、トロイア戦争を「トロイの木馬」の奸計で終結させ、その後10年間の冒険を描いた叙事詩。
オデュッセウスは冒険の最中、一つ眼の人食い巨人キュクロープスや、旅人を獣に変えてしまう魔女キルケーなどの苦難を乗り越え、海の女神カリュプソーと恋仲になりながら、なお望郷の念断ち難く、ついに貞淑な妻ペネロペーの待つ故郷に20年ぶりに帰還し、妻を苦しめる者達を殲滅する。
監督がわざわざ作中で引用してみせたオデュッセイアと、今作のストーリーやキャラクターとの類似点を探すのも一興だろう。

今作のテーマは、「たった1人も守れない奴が、世界を守れると思うな!!」。
今作においては、イーサンがスパイとして非情になりきれず、いざと言うときに仲間や市井の人たちを犠牲にできない様子が繰り返し描かれる。
そのことは、賛否含め作中で何度も言及される。
その上で、最終盤、絶体絶命の危機にあって、世界を救ったのは、誰の手か。
このテーマは、多数者や自国の利益のために少数者や他国を切り捨てる思想に、真っ向から否を突きつけるものであり、社会批評性がある。
このシリーズの真のテーマについては、過去作のレビューで述べたとおり。今作でも一貫してることは最早観なくても分かるレベルである。

一部の超絶アクションにストーリー上の必然性がないことや一部キャラクターの動きが強引であることなど脚本の粗を中心に色々と批判は可能だが、トム・クルーズの見せてくれた映画の新たな地平の前には些細な問題である。

スーパースターの狂気のスタントアクションにより、アクション映画史に残る域に達した傑作。
前作までのシリーズの序列は、個人的に5=1>4=3>2という感じ。
ストーリーとしては正直言って今作より1や5の方が好みだ。
3や4の一部のミッションはクオリティ的に今作を上回る。
トムのカッコよさだけなら、2の方が今作より上かも知れない。
しかし、である。
今作はトム・クルーズという実在する1人の男が、命がけで作り上げた未曾有の映像を記録した作品である。
そのことのみをもって、今作をシリーズ最高傑作と呼びたい。