秋日和

ヒットラーの狂人の秋日和のレビュー・感想・評価

ヒットラーの狂人(1943年製作の映画)
4.0
水で濡れている、という理由をつけて、女が男に手を握らせない。映画の序盤で描かれるそんな些細なことが、実は結構大切な瞬間だったのかもしれないと観る者に後々思わせるなんて、ダグラス・サークはやっぱり凄い。
「ハイル、ヒトラー」と叫ばせて手を挙げること、ナチへ引き入れるために手を挙げさせること。恐怖のあまり服の首元を手でギュッと握ることや、両手で顔を覆うこと、或いは祈りの為に十字を切ること。もっと別の時代ならばその手で好きにピアノを弾くことも出来たに違いないし、引き金を引く必要はなかったかもしれない。ブレッソンのような手のショットがあったわけではないけれど、この作品は紛れもなく「手」の映画なんだと思った。登場人物たちの意思/感情がどうしようもなく手に伝わっていく……そんな瞬間に何度も何度も立ち会ったような気がする。勿論、同じ「手」でも、そこから繰り広げられるアクションはバラバラなのは当たり前(丁度、愛し合う男女を包み込む煙と、爆破によって発生する煙が全然違うようなものだ)。だからこそ、観ている間中、「手」から目を離すことができなかった。
他には稲穂の揺れと箒の揺れ、更には鐘の揺れを見事に繋いでみせる辺りに然り気ない巧さを感じたり。扉の使い方なんかも良かったな。メロドラマと少し距離を置いたダグラス・サーク、もっと観てみたい。
秋日和

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