凄まじいパワーを持った映画。面白かった。
世にのさばっている悪いことは全部詰め込んでやりました!と言わんばかりのインモラルなエンターテイメントショー。ひとりの人物の栄枯盛衰がこれほどまでに面白く、また儚く、それでいて突き刺さるのかと、そのストーリーテリングに釘付けでした。
── 公共の安全を守り市民を犯罪から保護すること
── 正義の味方、悪を断つ
果たして諸星の考える"正義"とはどこに存在し、なんの意味があったのか。彼が、いくら仲間思いの発言をしても、シャブに手を出した恋人を救ったとしても、「自分のこと」しか考えられない最低なやつだったことは明白でしょう。それを"正義"という名のもとでやってしまう一番厄介なタイプのやつだということも(『ビジランテ』でもいましたね、もちろん『凶悪』も)。彼は、日本の安全を守るため!から北海道の安全を守るため!にマインドを変えていき、最終的には柔道の畳の上くらいのパーソナルな部分しか守れなくなっていきました。最終的にはそこさえも崩れるのだけど…。
それでも諸星の行動に妙な爽快感があるのは彼が生き生きとしているからでしょうか。というよりも"生きている"という感覚が画面を通してパワフルに伝わってくるからでしょう。中でも印象的なのは「吸って吐く」という、人間の生理的な行為の頻出でした。それは、下戸な彼がストローでジュースを吸い込むというシーンに始まり、悪に染まることの象徴として吸うタバコ、もはや人間ではなくなってしまったことの符号のような水の多量摂取など…。また、唾や血を"吐く"行為として。
下戸="純粋無垢な赤子"であるとするならば、タバコを吸いシャブ中になることによって、彼は徐々に大人になり、悪人になり、もはや人間ではなくなっていってしまう。しかしそれでも、人間を辞めてしまった彼が「生き続けた」ということが重要なのでしょう。その力強さだけは、鮮烈だったのです。
綾野剛すごい。