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メモリーズ 追憶の剣のesewのレビュー・感想・評価

メモリーズ 追憶の剣(2015年製作の映画)
3.5
2018.10.22

韓国の歴史ものアクションにハズレなし。

監督の美的センスだけでアクション一本撮らしてくれ!みたいなCM出身かMV出身みたいな映画。

CM・MV出身だと「撮らしてくれ!」とは言ったけど、「撮れる!」とは言ってない!みたいな90分から120分ぶんのアイデアも予算も足りないやんけみたいのが多い(00年代前半そういう映画いっぱいあったけど今ないね笑)けど、今作はちゃんと最後まで走りきってる珍しい作品。

お話は韓国っぽいというか、ギリシャ悲劇的な、オーソドックスな運命に翻弄される系なので特段のひねりはない(だから感情移入もほとんどできない)けど、ストーリーどうでもいいぐらいにはアクションとセットや衣装が作りこんであるので見てて気持ちいいというか陶酔できるレベルの美的水準になってる。

セットや衣装も凝ってて、王宮の建具など組子の透かし壁が一枚一枚デザイン違う。高官の帽子飾り、みんなシースルーの黒で統一されてるけど、よく見ると織柄がみんな異なる。1秒か2秒で過ぎ去る花茶にお湯を注ぐシーン、そのうちの0.5秒とかの一瞬にも茶の中の花が開く優雅な動きがある。この映画には細部にちゃんと神がいて、韓国映画人の繊細さが見て取れる。

韓国アクションって殺陣よりは、カメラワークと編集によってその特徴的なスピーディーかつメリハリがあり躍動感もあるシーンを組み立ててて、中国ものとも違うし(この作品では中国的ワイヤーアクション多いし殺陣も中国的な優雅さをコピーしてるけど)、日本的な静的・瞬間的なそれとも違い、ちゃんと独自の表現文化を打ち立ててすごい。このアクションシーンの編集に限ってはハリウッドよりもたぶん上手い。マーベルとかの大作アクションでもほとんどこんな躍動感出ないが、韓国アクションでは常時出てる。韓国アクション映画界の水準の高さよ。

主人公、客観的に見ると可哀そう過ぎないか?両親の罪滅ぼしの道具にされただけで、主人公に限って観ると、本当になんも救いがねえ!父親にはぶっ刺されて死にかけるし、父親が母を切り殺すところを目の前でみるし、最後は父親も母親も自らぶっ刺して殺すことになるし。人生のすべてが偽りなので真実を知るとアイデンティティが皆無になるだろう。この映画にもし続きがあったら精神崩壊して廃人になるか自殺してしまってそうである。さすがギリシャ悲劇ベース。

あと、主人公役の女優さんが韓国映画にはめずらしく整形っぽさがなくていい。純韓国風な顔立ちで強い主人公を演じてて個性的で魅力的である。
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