旅するランナー

世界の涯ての鼓動の旅するランナーのレビュー・感想・評価

世界の涯ての鼓動(2017年製作の映画)
3.6
【冗談じゃないよ、ジョン・ダンだよ】

生物数学者ダニーと、水道技師と偽る英国諜報員ジェームズの、ノルマンディー地方ディエップでの運命の出会い。
美しく穏やかな時間の中で、愛し合う二人。
束の間の幸福を味わった後、二人はそれぞれの任務のため、離れ離れになる。
ダニーは生命の起源を解明する調査のために、黄色い潜水艦でグリーンランドの深海へ。
ジェームズはテロ阻止のため、南ソマリアに潜入するが、ISに囚われてしまう。
連絡がつかなくなった二人の苦悩。
だが、ここから、愛の切なさよりも、今の世界で生きる苦しさの方に、今作は重きを置いてくる。

何人も孤立した島ではない。
誰がために鐘は鳴る。
イギリスの哲学者・詩人ジョン・ダンによる「瞑想録 第17」を引用し、人と人とはつながっており、すべての人は人類の一員で、すべてが他人事ではないのだと訴えるヴィム・ヴェンダース監督の心の鼓動が伝わってくる。
ディエップという、第二次世界大戦で連合国軍が上陸作戦に失敗した地が選ばれているのも、人間の愚かさへの警鐘だろう。
これは、決して恋愛映画じゃないよ、連帯映画だよ。
世界の果てで、人類愛を叫ぶんだん。