むーしゅ

BFG:ビッグ・フレンドリー・ジャイアントのむーしゅのレビュー・感想・評価

2.3
 Steven Spielberg×ディズニー、そして「チャーリーとチョコレート工場」や「マチルダ」で有名なRoald Dahlが原作という夢のコラボ的な作品。それだけではなく、脚本は「E.T.」の脚本家として知られ、本作が遺作となってしまったMelissa Mathison、音楽はSpielberg作品といえばこの人というイメージがあるものの前作「ブリッジ・オブ・スパイ」に体調不良から参加出来ていなかった巨匠John Williamsが復帰という素晴しい布陣です。

 ロンドンの児童養護施設で暮らす少女ソフィーは、真夜中に街を歩く巨人を偶然見つけてしまいその巨人BFGによって口封じのために巨人の国に連れ去られる。人間界に家が無いソフィーはBFGの家で暮らし始めるが、巨人界でBFGは小柄であることを理由に他の巨人達からいやがらせを受けていることを知る。ソフィーはBFGに対し、巨人達を倒そうと提案するのだが・・・という話。上記の素晴らしい環境下で作られた作品のため「E.T.」の再来かと期待は高まるものの、上げすぎたハードルの下を地面に這ってすり抜けているかのような作品でした。

 その主たる原因はメインの二人BFGとソフィーが想像以上に刺さってこないことだと思います。先ずBFGに関してですが、彼はE.T.等と同じく人間ではないキャラクターで、彼と出会ったことは未知との遭遇なわけですが、映画を見終えてもそんな彼に対して一向に愛着がわいてこないのです。あの「シェイプ・オブ・ウォーター」ですら、半魚人が気になって仕方ないのに、BFGには巨人のおじいさん以上の関心がわきません。それは彼の物語性の無さが起因しているように思います。本作ではそもそも巨人たちは普段何を主として生活しているのかとか、BFGの生い立ちなど彼に関する背景がほとんど語られません。それが故、彼が巨人の中で肩身が狭かろうが他人事の域を出ず、大変ですねとしか思えない状況です。見た目が愛らしければそれでも良いのかもしれませんが、見た目はただのおじいさんということもあり、E.T.や半魚人に感じた愛らしさは全く感じません。そしてソフィーですが、正直に言ってしまうと彼女は全然可愛くないです。顔がという訳では無く、キャラクターが全く魅力的ではないですね。これは脚本によって構成された人格とRuby Barnhillの演技力やしぐさを含めたオーラが原因かと思いますが、Ruby Barnhill側でもう少し頑張れた気がしますね。Steven Spielbergらしく顔が可愛いより、どこにでもいそうな子を選んでいるのはわかりますが、彼女は主人公が似合う役者ではなく、少しは「LION ライオン 25年目のただいま」のSunny Pawarくんを見習ってほしいです。BFGを演じたMark Rylanceとソフィーを演じたRuby Barnhillがもう少し相乗効果で高め合っていればかなり違った作品になった気がします。

 そしてこの映画の物語を簡単に言えば「小さな少女が巨人を動かし、国を動かす」ということで、「少しの勇気があればどんなことだって出来る」というのが伝えたいことかと思います。しかしそれにしてはあまりにも主人公ソフィーが汗をかかなすぎではないですかね?たとえ困難な状況になって皆が諦めても、彼女だけが諦めなかったから結果的に皆の心が動いた、というような展開が抜け落ちており、彼女がしたことはBFGと連呼することと、女王陛下に会ったことくらい。物語はわかりやすいですが、子供向けアニメ映画のようにあまりにもまっすぐ進み続ける展開に大人は完全に飽きます。別にお決まりの展開でも良いので、もう少しピンチになってくれないと、物語に一喜一憂するのは難しいかと思います。またイギリスの作品らしく不思議の国のアリスやハリー・ポッターでみられる言葉遊びも含まれていますが翻訳に苦戦しており、結果巨人のリーダーの名前はマルノミになるなど、もう少し頑張れたのではないかと思わせるレベル感で着地しています。なんか時代をかなり巻き戻されたような、白雪姫の7人の小人じゃないんだから、と思わざるを得ない翻訳センスです。原作本との整合性を気にした結果なのだとは思いますが、残念なことになっているなという感じでした。

 唯一よかったことは映像の美しさですね。さすがはSpielberg作品、潤沢な予算があったんだろうと思える技術力の高さで、夢が飛び回るシーンなど巨人の世界を美しく作り上げています。この映画は企画から完成まで25年もかかったようですが、きっと映像美以外の要素は長い歳月の迷走により行方不明になってしまったのだろうなという作品でした。
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