天豆てんまめ

君の名は。の天豆てんまめのレビュー・感想・評価

君の名は。(2016年製作の映画)
4.5
「君の名は。」

久しぶりに観て、昔自分が書いた厨二病的レビューを改稿した 笑

4年半前に劇場で観た時、

数十年に一度の傑作。

と正直、そう思った。

事前評判が良いと聞いてから観に行くと、8割満足が通例なのだけど、この作品に限っては、その予測を軽々と超えていった。

全国的にもてはやされた作品は、観る前から既視感が宿り、感動は色褪せる場合があるが、この作品に限っては、そんな先入観を蹴散らされた。

脚本・映像・音楽・背景美術・キャラクター・台詞、全てが高いレベルで「感情を揺さぶる」という一点に収束された映画は、3000作近く観てきてもそうはなかった。

幼少時から長く映画を観すぎてしまった私は、いつの日か、心揺さぶられることが減っていってしまっていた。感度が鈍くなっていき、キューン、とか、ゾクゾク、とか年々、感じられなくなっていた。批判的観念や映画的記憶が、感情の深い部分に映画が侵食するのをとどめていたように思える。

この作品で、私は数度にわたって、ゾクゾクと鳥肌がカラダを巡った。

みぞおちの深い辺りがキューンと締めあがる懐かしい感覚。

実人生の失われた時間が走馬灯のように巡る切ない感覚。

幾度となく涙が溢れた。でも、理由の芯の部分はわからない。

美しい空や宙の光景で抒情を煽るのが新海監督だが、過去作ではそれが先行し過ぎて、キャラクターが後付けに感じられる時もあった。

ただし、この作品の瀧君も、三葉も、生命力をもって躍動している。

美しすぎる背景をぶち破るように、生きて、活きて、生きているのだ。

アニメのキャラクターなのに、実写よりも、現実に彼らの存在を身近に感じる映画はあったろうか。

アンニュイな奥寺先輩、リアリストの四葉ちゃんも忘れがたい。

彼らは、忘れたくない、忘れてはいけない、、

その名前、その存在の記憶に手を伸ばそうとするが、我々も無いだろうか、夜中にふと掴んだあの感覚、あの人生を変えるようなビビッドな感覚が日常に埋もれ、忘却の彼方に消え去りそうになりながら、、日一日、過ぎていく。

でも、確かにあった。全人生を賭けても忘れたくない、忘れてはいけない、あの感覚、あの想い、あの人、あの瞬間。

声優としては、沁みるナレーションから魂の叫びまで神木隆之介君、素晴らしい。上白石萌音さん、「舞妓はレディ」から「ちはやふる」と来て声優として、透明感と可愛さと訛りを統合して純度の高いヒロインが誕生した。今やドラマで主演を演じるようになった。

男女入れ替わりという、ちょっとHなコメディネタに収まりそうな入口から、笑いつつも、テンポよく彼らの日常を追っている内に、お互いを切なく追い続ける想いにスライドしていくストーリーラインのうねりが心地よい。

新海監督の過去作品は時にナルシシズムが前に出て、引いてしまう瞬間も作品によってはあるのだが、この作品に関しては、思い切り、ど真ん中に、速球ストレートを投げ込まれて、みぞおちに深く突き刺さった。

人間の心理・感情がどう揺さぶられ、どう跳ねて、いかにドキっとし、いかにキュンとくるのか、そこを中途半端に狙うと作為が透けて見えるのだが、何度も、何度も、何度でも、そこのポイントに剛速球を投げられたらもうカラダの反応、感情の揺らぎが、作品のリズムとシンクロして、1シーン1シーンとこちらの感情がビンビンと呼応していく。

アニメ、実写という枠を超えて、奇跡の青春映画が誕生したことが嬉しい。

15年前、「時をかける少女」を観て、感じたあの感覚をいまだ忘れない。

それを超えた今回の「この感覚」。20年後も決して忘れないだろう。

先に、友達と観に行った中2の長男は、既にサントラを買っていた。それを聴きながら、当時、レビューを書いた。

RADWIMPSの、この作品に寄り添う、いや、高らかに感情のうねりを増幅するもう一人の主役という存在感(本来、映画音楽としては邪道とも言えるほどのPV感だが、それも許してしまう)は圧倒的。野田洋次郎はアーティストというより「トイレのピエタ」俳優で独自の世界を抱える雰囲気を醸していて知ったが、こんな壮大かつアッパーな楽曲を一挙に世に送り出したとは、、興味が尽きない。

私が家に戻り、長男と顔を見合わせた時、彼はにやりと言った。

「どうだった?」「傑作だな」「やばいよね」「ほんとやば過ぎる位、よかったな」「友達とキュンキュン来ちゃったよ」「鳥肌もんだな」親子の会話とは思えないが、、、

息子よ、中2でこの作品と出会えた君が羨ましいよ。

でもな、この映画を観て、パパも誓ったんだ。

どこか深いところに置き忘れてしまった「あの感覚」を、もう二度と逃さないってことを。

そして、、

この映画を見て4年半が経ち、中学2年だった長男は180近くになり、背は優に越されている。そして先週、第一志望の大学に受かり、後輩になった。

次男とは明日朝、新エヴァをIMAXに観に行く。長男は同じ劇場の次の回に友人と観に行く。夜は家族で徹底エヴァ考察!

私は「あの感覚」を取り戻せるだろうか。

青春は終わらない。