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君の名は。のしゃにむのレビュー・感想・評価

君の名は。(2016年製作の映画)
4.0
「線が集まって固まれば『立体』になるッ!この概念ッ!!」

< 君はお縄 >
乳繰り三年、尻八年(懲役)

↓あらすじ
田舎に住む高校生の三葉は不思議な夢をよく見る。夢の中で三葉は東京に住む高校生の滝という少年になっている。何もない田舎で都会暮らしに憧れる三葉夢の中の都会暮らしを満喫していた。一方で東京に住む高校生の滝も不思議な夢を度々見ている。夢の中で滝は田舎に住む高校生の三葉という少女になっているのだ。やがて、これが夢でなく実際に『入れ替わっている』ことに気付き、奇妙な『共同生活』が始まる。惹かれ合う2人。突然『入れ替わり』が途切れ、滝は記憶を頼りに三葉に会いに行くが、夢で見た三葉が住んでいるところは…

・完走後の乾燥した感想
「良く分からないけど、とにかく感動した」「理解できないけど、間違いなく名作」……劇場に足を運んだ知り合いや、ネットの感想に耳を傾けるとかのような感想で溢れかえっていて、やれやれ、ボキャブラリーが貧しい人ばかりであるな、と斜に構えて鑑賞した次第ですが、率直に感想をいえば結局のところ、自分も説得力に欠ける言葉の羅列しか出来ないです。もし自分が単純明快なロマンチストであれば「想いは時間をも超える」などと顔から出火する文句を並べて片付けたいところですが、変に理屈っぽいところがあり、多少理論的な理解が欲しいので、いまいち解せません。劇中でカギを握る「糸」と「時間」の概念で全て説明がつく…果たしてそうなのだろうか…終始首をかしげる場面、展開に正直ついてゆけず、坂道をブレーキの壊れた自転車で下るように、怒涛のように畳みかける2人の『入れ替わり』青春ドラマの疾走感に引き込まれ、ついに疑問が置いてきぼりでした。丸く収まればすべて良いのだと言う青臭い雰囲気に半ば無理矢理説き伏せられたような不完全燃焼感が否めなく、圧倒的多数の肯定派意見の中にこんな言いがかりを投下すれば『君はお縄。』と投獄されそうな気がしますが、異端的パイマニアたるパイオニア(開拓者)故に無益なことを記しておきます。

・二部構造
くどいほど予告を見ていたので、田舎っぺ少女とやれやれ系シティーボーイが何らかの理由で入れ替わる深夜アニメっぽいストーリーなのだろう、と事前に予想していました。前半部分は予想通りに展開し、予想以上にテンポよく進み、前半部は主に滝(中身は三葉)視点で念願の都会暮らしをコミカルかつセンチメンタルに描きます。年頃の男女の入れ替わり設定は、それぞれのリアクションが滑稽で見ものなのですが、三葉(中身は滝)のシーンがあまり描かれていません。これは、後半部が基本的に滝の視点で描かれるための工夫だと思います。滝が密かに思いを募らせているバイト先の年上の先輩へのアプローチ代行。疑似的交換日記での喧嘩の絶えない愉快なやりとり。思えばこれらの三葉の言動がある意味、後半部の悲壮感を増幅させる起因となるのでした。何もかもがキラキラと輝いて洗練された都会と、青々しい生命力香る田舎の風景を交互に行き来する前半部は若い二人の青春バイタリティ溢れる小気味よい助走でした。まるで糸がぷっつりと断たれたような不意の展開、殊に巨大で美しく何故か不穏な感じのする彗星の登場からの展開には驚愕です。有り体なラブコメ作品から時間の概念を基軸に置いた難解で解釈力の要されるSF作品へ変貌する二重構造に唸らされました。

・糸の概念
糸だけに雁字搦めになりそうな厄介なキーワードが「糸」でした。劇中でも言及されていましたが、今作で「時間」は「糸」と捉えられるようです。従って、時間は糸の性質を有し、結びつくこともあれば離れることもある柔軟なものとして捉えることが出来ます。しかし、これはいささかズルい。というよりマズい。切れてしまった糸(即ち時間)は結びなおせば万事元通り…青狸ロボの秘密道具の如く「何でもあり」がまかり通ってしまう危険性があります。幾ら万能な存在に近づいても支配できない時間と言う絶対的な概念を、理路整然とした説得力に欠ける理由で捻じ曲げてよいものでしょうか。少なくとも時間を改変するという神ですら出来ない奇跡の代償、応報(ツケ)が改変者へと巡ってくる、あまり後味のよろしくない展開があれば、釣り合いが図れたのではないでしょうか。ここで念頭に置いた作品は有名な時間改変作品『バタフライエフェクト』です。時間改変という常識からみれば不自然な行為の代償は思い描いた結末とズレた不自然な未来…の方が観ていて自然で違和感がありません。今作の時間への介入は、苦みの伴う改変行為とは思えませんでした。「まあ、万事丸く収まれば…」と言い包められたような感じもするし、劇中のラッドの挿入歌や若さに身を任せた全力疾走に見入ってばかりで疑問を考察する暇さえ与えられませんでした(単なる理解力不足ですが)事の発端にしても元を辿ればこんがらがります。今作は時間軸を一直線に描いてみるとまことに厄介です。素直に一直線に記してみても過去と未来が平気で交差するので、さながら数学の授業で目にしたメビウスの輪のようなトリッキーで文系泣かせの変則的で奇妙な時間軸が描けることでしょう。時間を糸と同義に捉えるとこのような摩訶不思議な現象が起こるのです。理解力に乏しい自分も結局のところ「何かよく分からないけど良かった」という意見にたどり着くようです。不思議だな(小並)余談…生粋のシャイボーイであり「オール・ユー・ニード・イズ・キル」と言うべきところで「オール・ユー・ニード・イズ・ラブ」と口走り受付のお姉さんを困惑させた前科持ちの自分は今回受け付けのお姉さんに対して「君の名は?」とさながらナンパ師の如きイン↓トネイションで言ってしまい、泣く泣く「君はお縄」としょっ引かれブタ箱での生活を余儀なくされていますが、隣の部屋のランボーそうな筋肉漢と真向いの丸太を担がせたいマッチョマンの中身が入れ替わる珍事が起こっているので当面は退屈はしなさそうです。
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